もしシュターメイア王国にバレンタインがあったら・2



「フィー! 今年もたくさんチョコレートもらったよ! 一緒に食べよう!」


 今年も両手いっぱいどころかいくつもの袋いっぱいにチョコレートをもらったらしい『氷の美貌の騎士様』の異名を持つ友人――ルカが満面の笑みで駆け寄ってきたので、フィオラは軽くため息をついた。


「……今年も私と食べること前提でもらってきたのか」


「うん。女の子たちはどうあれ俺に受け取ってもらえればよかったみたいだったから。フィーは甘いものがたくさん食べられて嬉しい、俺はフィーの嬉しそうな顔が見れて嬉しい。誰も損しないだろう?」


「そう……か……?」


 何か間違っている気がする。気がするが、フィオラはつっこみを放棄した。


「でもちゃんと、フィーにはフィー用のチョコレート用意してきたよ」


「私も一応用意しておいた。日頃世話になってるからな」


 勝手に世話を焼かれていると言ってもいいが、世話になっているのには違いない。


「はい。これ。ホットチョコレート用のパウダーなんだって」


「……珍しいな。お前が私に調理の手間が要るものを渡すのは」


 フィオラに面倒くさがりの側面があるのをルカも知っているので、そういうものを選んできたことにひっかかりのようなものを覚えるフィオラ。


「でも、もらったものなら、フィーは放置してダメにしたりしないだろう? これでホットチョコレートを作るときに、俺のことを思い出してくれると嬉しいな」


「……結構な量、作れそうだが」


「その分俺がいないときでも、フィーが俺のことを思い出してくれるかなって。もちろん自分で作るのが面倒なら、俺を呼んでくれれば俺が作るよ」


 にこにこと純粋な瞳で言っているが、内容はちょっと重いんじゃないか?と思うフィオラ。

 しかし自分を想って選んでくれたものには違いない。

 フィオラはルカの差し出していた瓶を受け取り、代わりに自分の用意したチョコを差し出す。


「お前の用意したものに比べたら面白みはないが……まあ、仕事中の糖分補給にでもしてくれ」


「フィーがくれたものを、そんなもったいない食べ方しないよ。大事に食べさせてもらうから」


「そこまで真剣な顔で言う台詞か? まあ、好きにしろ」


「うん、好きにする。じゃあとりあえず、女の子たちにもらったチョコレート、一緒に食べよう。ホットチョコレートも作ってあげる」


「もらった分には害がないかの確認の魔法もかけないといけないしな」


 そしてルカの大荷物を検品するために移動し、二人は甘いひととき(そのままの意味で)を過ごしたのだった。

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