エピローグ
「このフィーに会うの、なんだかすごく久々な気がするな」
「実際、お前とは式典前から会っていなかったからな」
「そういえばそうだった。一ヵ月くらい会ってなかったのか。久しぶりの大人のフィーだ」
「私もこの目線でお前を見るのは久々だな」
「フィーの顔が近くてちょっとどきどきする」
「……。子どもの姿で抱えていた時の方が顔が近くないか?」
「そうかもしれないけど、なんていうんだろう。大人のフィーだとまた違う気持ちになるというか」
いろいろつっこみたかったが、フィオラは懸命にそれを止めた。
深く突っ込んでもろくな返答がなさそうだと判断したともいう。
「……お前には、礼をしないとな」
「え、そんな。いいよ」
「いや、私の気が済まない。――とはいえ、お前はあまり物欲がないからな……」
ルカは意外と物を欲しがらない。部屋も最低限のものだけ揃えて、あとは買わないようにしているのを知っている。物を欲しがらないというか、物を手元に置こうとしないというか。
「お礼をしてくれるって言うなら、また俺と出かけてくれる?」
「そんなことでいいのか? というか、それで礼になるか?」
「なるよ。俺はフィーと過ごす時間が、一番好きだからね。……あ、『一緒にお出かけしてくれる券』とか『執務室に遊びに来てくれる券』とかがいいな」
「子どものプレゼントじゃあるまいし……」
「でも、そういう形であった方が安心できるな」
礼をしたい相手にそう言われては仕方ない。
ローシェ魔法士長に一週間程度様子見で休暇を取るように言われていたのもあって、フィオラは暇な時間にそれを作ることにした。
『一緒に出かける券』『執務室に行く券』などと紙に書き込みながら、何とも言えない微妙な気分になる。
しかし、付き合わせた分だけの埋め合わせは必要だろうと、ルカがフィオラについてくれていた日数分、それを作る。枚数は半分ずつにした。
地道な作業をしながら、知らず苦笑が漏れた。
(こんなものを本気で喜ぶんだろうと、思えるだけの付き合いができたのが嬉しい……と今更思うのは、おかしいだろうか)
おかしくてもいいか、とフィオラは思う。
自分がそう思う気持ちは確かだし、それだけの積み重ねをしてきたのも、新たに積み重ねたのも事実だ。
券を渡したときルカが浮かべるだろう笑顔を思い浮かべて、フィオラもまた、微笑んだのだった。
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