第13話
「五件目が起こった……!?」
その一報を聞いたとき、フィオラは思ったよりも衝撃を受けた自分に動揺した。
可能性は示唆されていた。でもまだ間に合うと思っていたのだと、甘い考えを抱いていたのだと自覚する。
動揺が顔に出ていたのだろう、ルカが気遣わしげな視線を向けて来るのに目で大丈夫だと返した。
情報を仕入れてきたのはやはりというか、サヴィーノ魔法士だ。
フィオラたちが早めに就寝したのと前後して外出し、情報を集めていたところ、その情報が入ってきたらしい。そのまま現場に急行したが、『悪い魔法使い』の姿はもう無く。後処理にこの国の魔法使いがやってきたところで戻ってきたのだという。
まだ夜明けには遠い時間だ。けれど眠気など疾うに去っている。
淡々とサヴィーノ魔法士が状況を説明するのに、じっと耳を傾ける。
「今回も『家族』が標的になっています。氷砂糖の彫像になっていたのを国付きの魔法使いが元に戻しましたが、他の件と同じく話を聞ける状態には無いようですね」
「氷砂糖の彫像……」
「まったく、人間はちょっと意識のあるまま別のものになって動けなくなっただけで狂乱するんですから、やわで困ります」
こんな時でもサヴィーノ魔法士の毒舌は相変わらずのようで、少し安心する。内容はともかく。
「周囲の家に貧血の症状を訴えているものが多いことから、代償はそれだと見られています。……フィオラ・クローチェ魔法士、『悪い魔法使い』になったと思われる彼の代償について、何か聞いていますか?」
「……ああ。本人も……アルドも代償はそれだと言っていた」
「では、彼が新しく『悪い魔法使い』になったと見て間違いないようですね」
『悪い魔法使い』になった――その言葉が、当然であるのに胸を刺す。
(あんなに純粋で……あんなに人を気遣うやさしい子だったのに、何故……)
魔法を使うのも、他人の為ばかりだった。誰かを助けるため、フィオラにお礼をするため、そういったことにばかり魔法を使う、やさしい子だったのに。
「……じけんの現場に、行ってはダメだろうか?」
だから、そう提案してしまったのは、何か理由を見つけたかったからなのかもしれない。
サヴィーノ魔法士は少し目を見開いて、しばし黙考し、口を開いた。
「現場に、ですか……。貴方は恐らく『次』の候補ですから、万が一にも調査に来ている魔法使いだと思われる行動はしないでいるべきですが……。まぁ、『友人』がこのようなことになったんです、様子を見に行くのも、目を盗んで中に入るのも、おかしくはない――ということにしておきましょう」
思ったよりもフィオラに配慮された答えが返ってきて驚く。それが伝わったのか、サヴィーノ魔法士は嫌そうな顔をした。
「別に貴方の心情に配慮しているわけではありません。気もそぞろに対応されるより、より自然な行動をとった結果、閊えをとった方がいいと思ったまでです」
それを心情に配慮していると言うのではないだろうか、とフィオラは思ったが、懸命に黙っておいた。
「それだとフィーが一人で行動することになる。この時間帯だ、危険性はないのか?」
「子どもですし、魔法使いですしね。危険性はもちろんありますが、いい機会でもあります――『接触』があるかもしれない」
「『悪い魔法使い』からの勧誘ってことっすね……」
「それこそ願ったり叶ったりだ。私はかまわない。一人で行く」
「フィー……」
心配そうな目をルカが向けて来るが、サヴィーノ魔法士が言う通り、チャンスでもある。
アルドが直接話に来るというのなら望むところだ。
その後は少し今後の動きについて話し合い、フィオラはひとり、アルドの家に向かうことになった。
最後までルカは心配そうだったが、真摯に説得したらなんとか納得してくれた。本当にルカはこの姿の自分に対して心配性だと思う。
(まぁ、もし知り合いが幼い姿で異国で一人歩きするとなったら、私だって少しは心配するものな……)
まだ暗い道を一人で歩きながら考える。シュターメイア王国もラゼリ連合王国も治安はいい方だが、それでも子どもの一人歩きは心配になるものだ。実年齢はともかく。
月の光だけが導の時間帯なので、他に外に出ている者を見かけることもなく、アルドの家がある地区まで来ると、さすがに界隈はざわついていた。見咎められないように気を付けながら近づいていく。
事件が起こったとされる時間からも、国付きの魔法使いが後処理をしたという時間からもある程度経っている。家の中には人がいないことを確認して、フィオラは短距離の転移魔法を発動して、アルドの家の中に入った。
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