第12話
「そういえば、あの花はどうしたんだ?」
ルカが、出入り口の傍に置いた花の活けられたコップを見て言う。
アルドからもらった花を食事の前に活けたのだ。持って帰ってきたところを見ているので疑問も当然だろう。
「アルドからもらった」
「花を? ……口説かれたのか?」
「なんでそうなる。昨日服をかした、その礼だと言っていた」
「ああ、なるほど……」
そう呟いてルカが考え込むような仕草をしたので、フィオラは首を傾げた。
「どうかしたのか?」
「いや……そういえばフィーに花を贈ったことはなかったな、と」
「おくられても困る。私は花を愛でるしゅみはとくにないんだ」
「彼のは受け取ったのに?」
「何に張り合ってるんだ」
「だって、なんだろう……先を越された気持ちというか」
「たのむかられいせいになれ。礼として花をくれただけだと言っただろう」
それでもなんとなく面白くなさそうな顔をしている親友に呆れる。先を越されたってなんだ。
「でも、選んだ花はいいね。フィーによく似合う」
「そうか?」
「派手すぎないし地味すぎない。色が白っていうのもいい。フィーには白が似合うよ」
笑顔で言われた言葉に、一瞬息が詰まる。
『フィーに似合うのは白だよ。絶対に白』
いつか、そんなことを言っていた片割れを思い出す。
自分としては白は汚れが目立つし服に選びにくかったが、片割れが選んだフィオラの服は白だった。白いワンピースがお気に入りだったな、と思い出す。自分が着る服でもないのに、ずいぶんとこだわっていた。
「フィー?」
様子の変化に気づいたのだろう、ルカが名前を呼んでくるのに、この愛称も記憶を想起するのに繋がっているのだろうな、と思う。
片割れの名は『フィオレ』で、自分たちは互いに『フィー』と呼び合っていた。
ルカがフィオラを『フィー』と呼ぶのは、まだシュターメイア王国に来て間もない頃のルカが発音に堪能でなかったためでそう呼ぶようになっただけで、片割れのことを知っているわけではないのだが、記憶は重なる。
「なんでもない。ちょっと考えごとをしていただけだ」
「疲れてるんじゃ? 早く休んだ方が……」
「心配性だな。この体は前の時より成長しているから、そんなに早く疲れない」
「でも、子どもの体なのは変わりないだろう? ちゃんと休息はとった方がいい」
「まだ食べたばかりだぞ……」
子どもの姿になるとこの親友は随分と過保護になる。……子どもの姿ではないときも理由をつけて気遣われていたような気もするが。そんなに自分は傍から見て危なっかしいとか頼りないとかなのだろうか……と思わず考えてしまう。
「明日も、アルド……のところに行くの?」
「ああ。約束もしたことだし」
「仲良くなったんだね」
「……それについては、まだ出会って二日だからな……」
「でも、明日の約束をしたんだろう?」
「それはそうだが」
「だったら大丈夫だよ。……明日も会いたいと思うって、好きだってことだと思うから。俺がフィーに毎日会いたいみたいにね」
たった二日会っただけでそう思われているならアルドが逆に心配なんだが、とかおまえその後半のセリフは自分以外に言ったら誤解を生むぞ、とかいろいろ言いたいことはあったが、フィオラは飲み込んだ。特に後半については、いちいちつっこんでいてはこの男と親友をやっていられない。
なので、「……そうか」とだけ相槌を打つと、「そうだよ」とにこにことした笑顔で返ってきた。
この笑顔がだんだん日常の一部分になっていることを認めたくないような認めなければならないような。
そのあとはルカの式典での仕事の話などを聞いて、ルカのいない間の話などを聞かれて、明日に備えて早く寝た。
――だが、それでは遅すぎたのだと、現実は容赦なく突き付けた。
……五件目の事件が起こったのは、その夜だった。
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