第3話 朝の出来事にて、
「おはよーっ、朝だよお兄ちゃん。」
入学式から一週間経過。
目を覚ますと、天井と同時に女の子の顔が視界に入る。
まだぼやけた視界がハッキリと定まらず、目をこすってピントを合わせる事に夢中に
なっていると、女の子が追い打ちをかけてきた。
「必殺のぉぉぉ、太陽光線ンンーーっ」
大声を上げながら女の子は、ベッドの横のカーテンを一気に開ける。
「うわぁぁぁーっ。ギブ。ギブだ香蓮。お兄ちゃん起きました覚醒しました。
だから一回カーテン閉じてくださいーっ!」
彼女は小田原 香蓮(おだわら かれん)
歳は俺の一つ下で中学三年生、世界に一人しかいない俺の妹だ。
俺の苦しむ様子をケラケラと笑い楽しんでいる。
満足したのか、香蓮は
「ご飯出来てるからねー。早く用意しないと食べる時間なくなっちゃうよーっ?」
「せっかく用意したのになぁーっ・・。」
香蓮は俺の部屋を出る際に捨てセリフを放ちながら、リビングに戻っていった。
ん?・・香蓮が用意した?・・・いつもは朝飯用に味パンが用意している筈なのに・・・
もしかして、手作り朝飯?!ならば食べないと悪いな。いや、妹の手作り食べたい!。
俺はすぐさまベッドから離れ、自分の頭の中で30秒数え始める。
俺は秒数を自分で数えなげら、きっかり30秒後に着替えをすべて終えてリビングに向かう。
俺の期待どうりにリビングのテーブルの上には、朝食が用意されていた。
ご飯、味噌汁、目玉焼き、ウインナー、サラダ、鮭の塩焼き。
うーん、素晴らしいー。まさに理想の朝食だ。
目玉焼きの形の歪さ、魚の焼き過ぎた焦げ具合から料理の慣れない様が良くわかる。
ありがとう。普通に嬉しいわ。
「では、いただきます。」
まずは味噌汁、次にご飯。それからおかずをパクパクと口の中に入れていき、
あっという間に食べ終えた。
味の文句はいろいろあるものの、何より妹の早起きしてからの手作りというだけで
揺るがない満点である。
「お兄ちゃんおいしかったーっ?香蓮頑張ったよー?」
「おう、すっげえ旨かった。ありがとな。しかし香蓮が朝食用意してくれるとは
珍しいな・・・なんでだ?」
本来では、愛する妹の行為を疑うのは筋違いなのかもしれない。
しかしこの妹は策士だと俺は知っている。
俺が疑いの眼差しを向けると香蓮は、ふっふっふーっと怪しげに笑っている。
この小悪魔の笑顔に何度騙されたことか。許しちゃうけど。
「さすが我がお兄ちゃん。実は少しお願いがありましてー。」
エヘヘーっと可愛く笑う香蓮。
うーん、さすが自慢の妹である。可愛すぎて将来心配だ。
「なんだ?欲しいものでもあるのか?あんまり高いものは買えないぞ?」
「大丈夫だよお兄ちゃん。ちょっと次の日曜日に練習試合することになったから
応援に来てほしいなーっとお願いしたい所存でございます。」
香蓮は中学ソフトボール部に所属している。
そういえば先輩方が抜けて新キャプテンに任命されたって言ってたな。
休みの日は、一日中アニメ見て過ごすのが定番だが・・たまにはいいか。
「別にいいぞ。可愛い妹の頼みだ。全力で応援してやる。」
「ホント?!約束だよ!!?この約束を破った場合、お兄ちゃんと妹の会話は金輪際無いものとなってしまいますので、ご了承下さい。」
重たいし、怖えよ。愛する妹との会話を無くすとか地獄過ぎるだろ。
たまに香蓮の冗談って行過ぎているから怖いんだよな~。
香蓮の表情をチラッと確認すると、ニコっと笑っているものの
目だけは冷たく、鋭い威圧を与えるものだった
あれ?・・これ冗談だよね?・・・お兄ちゃんちょっと怖いわ。
「ま、任せろ香蓮。お兄ちゃんはこの約束を命に代えても守ります。
守らせていただきます。」
「うん!!お兄ちゃん信じてるからね。」
「じゃあ先に、学校行くね。お兄ちゃんも急いでいかないと遅刻しちゃうよー。」
そう言ってバタバタと騒がしく家を出ていく香蓮。
ちょっと見ない間に、香蓮の背中は大きくなったなー。そして更に美人になった。
俺が、うんうんっと妹の成長ぶりに感心していると、ふと時計が目に入る。
・・・・・・あ・・・ヤバい遅刻するーーー!!!!。
俺は食器を直ぐに片づけ、急ぎ玄関へ走り出す。
すぐさま靴を履き、扉を開けて誰もいない家の中に向かって
「行ってきます。」
これを言わないと、一日が始まらない。
玄関のカギをしっかりと閉めているのを確認して、我が母校へとダッシュで目指した。
走りながら俺は考えていた。
現在時刻は8時15分。タイもリミットは8時40分。
俺は普通は自転車通学なのだが、昨日タイヤがパンクしてしまい今日は歩き。
自転車なら学校まで急げば20分くらい。歩きなら30~40分。
ざっと逆算終了---結果 間に合わないですねこれ。
俺は走るスピードを徐々に落とし、ダッシュから通常徒歩へとギアチェンジした。
ふうっと、ゆっくり呼吸を整える。まあ仕方ないよな。
これ以上マジで走ったら、せっかく香蓮が『俺のために』作ってくれた料理を
リバースしてしまいそうだったからな。
・・・そう、『俺のために』作ってくれた料理だ。大事なことなので強調します。
この遅刻はあきらめじゃない。
何かを得るためにはそれ相応の対価を差し出す。
つまり香蓮の手料理を食べれる代わりに、遅刻を提供する。
うむ。素晴らしい交換条件だ。これなら先生も文句は言うまい。
うんうんっと一人で相槌を打っていると急に俺の後頭部に衝撃が伝わってた。
「そんな言い訳が通るわけないでしょ?バカなの?アホなの?シスコン。」
後ろを向くとそこには富士宮の姿があった。
察するに俺の後頭部のダメージの正体は、富士宮が持っていたカバンのようだ。
え?声に出てた?これは失敗、失敗。・・・うっかりしてた。
「朝から俺の後頭部と同時に、罵倒というコンボでダメージを与えるんじゃありません。
暴力的な女の子はモテないぞ。」
「だって光太さんが朝から変なことをつぶやいているから。・・・そんな頭痛かった?」
彼女は心配そうに俺の顔を覗き込む。普通に可愛い。
その顔は反則ですよ?痛くても正直に言えない感じになりますやん。
可愛いは正義?悪?皆さんはどう思いますか?私は堕天使と思います。切実に。
「いや・・・別に痛くはなかったぞ。いきなりでびっくりしただけだ。」
「ですよねー。これだけで痛いなんて大げさ大げさ。」
楽しそうに笑う富士宮。
えー、さっきの心配は何だったのー?。実はこの子Sなんじゃないの?
やっぱ堕天使だ。ルシファー富士宮だ。・・・悪くないな。
「てか富士宮、なぜお前がここにいる?」
「いやー、寝坊してバスに乗り遅れてしまいまして・・・。
それで走っていたら光太さんがいたので、驚かそうと思って静かに接近したら変なことを言っているからつい・・・。」
「つい?」
思わず追及してしまった。
「つい・・・気持ち悪くなって鞄で叩いちゃいましたー。あははー。」
満面の笑みで答える富士宮。
全く反省していませんね、はい。小悪魔の申し子め。
「というか、なんでこんなにのんびり歩いているんですか?!遅刻しますよ?急ぎますよ。」
そう言うと富士宮は慌ただしく俺の手を引っ張り走り出す。
「ちょ、、ちょっと待て、、ちょっと待って下さい富士宮さん。
今から走ったってたぶん間に合わないぞ。だからここは諦めてゆっくりとだな・・・」
「え?光太さん諦めるの?」
富士宮は不思議そうに返事する。
その表情はキョトンとしていて、純粋に疑問を浮かべる顔をしていた。
「んー?時間は五分五分と思うよ?それに、私近道知っているから多少は時間を短縮できるから。後は頑張り次第だよ。」
「でもなぁー、さっきまで遅刻確定モードになっているからどうもやる気が・・・」
俺が渋っていると、彼女はさっきより引っ張る力を強くしてきた。
驚いた俺が彼女の顔を見ると、その表情は自信に満ち溢れている顔をしていた。
「大丈夫!私を信じて!頑張ればきっと間に合うよ。・・・それにさ・・・」
「それに?」
俺は追及した。
「・・・諦めたらそこで試合終了だよ?」
俺はそのセリフを聞いて、思わず足が止まってしまった。
一呼吸入れて、どうしたの?っと心配している富士宮に俺は真っすぐ目を見て言う。
「・・・富士宮・・・行くか。道案内よろしくな。」
「お?やる気になったねー。よーし行きますかー?!私についてこいやー!!」
「おう!。あと恥ずかしいから手は放してくださいね?」
ハッとなった富士宮は俺の手放し、頬をほんのり桃色に染めて走り出した。
俺は見失わないように走り出した。
安西先生、俺は諦めません。頑張ってみます。
多くのアニメがある中、その中で俺がリスペクトしているセリフ。
それをまさかこのタイミングで俺に伝えてくるとは・・・
富士宮恐るべし。
あいつ、実はアニメ好きなのか?ちょっと富士宮に興味が湧いた朝の出来事だった。
アニメオタクで何が悪い‼ 玉城裕次郎 @tamadora
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アニメオタクで何が悪い‼の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます