幸せ泥棒

春風月葉

幸せ泥棒

 道徳でお腹は膨れない。

 その日、私はパンを一つ盗んだ。

 久しぶりに食べたパンは美味しかった。

 美味しくて、両目から涙が溢れた。

 私の盗んだこのパンで、誰かが代わりに腹を空かせるのだろうか。

 私の幸せは誰かの不幸とすり替えたものなのだろうか。

 そうなのだとしたら、私は誰の幸せを喰っているのだろうか。

 ムシャムシャと行儀悪くパンを両手で貪る。

 どれだけ他人の幸せを盗んでも、私の幸せは数分で消えてしまう。

 どれだけ他人の幸せを喰っても、私の腹は一時しかは膨れない。

 いつか私は盗みに失敗するのだろう。

 だからそれまではと、私は涙で湿ったパンに噛り付いた。

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幸せ泥棒 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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