ここは私の特等席 [380文字]
こぽこぽとサイフォンのお湯が沸く。
コーヒーの香りが漂う喫茶店の中、私は向かいの席に座る彼女に話し掛けようとして躊躇った。
店内にはテーブル席に座る彼女、そしてカウンターに座る男性が1人。
手馴れた動きでケーキを切り出しているマスターがいる。
男性はホットコーヒーを飲みつつ文庫本を読んでいて、サイフォンの音しか聞こえない店内で声を発するのが憚られたのだ。
テーブルの横、窓の外を見つめる彼女に無声音で話し掛ける。
「ここ、いいお店でしょ?」
彼女はそんな私に少し笑って、頷いた。
「また来てくれる?」
また、頷く。
マスターがコーヒーカップとケーキを1つ、テーブルに運んできてくれる。
彼女はコーヒーに何も入れなかった。
黒い黒いコーヒーに、揺らめくコーヒーに、私は映らない。
久しぶりに私の言葉の届く人が来てくれたことに気をよくした私は、彼女がケーキを楽しむ様を静かに見つめていた。
お題:コーヒー・喫茶店・無声音
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