あたしは地球外生命体 [500文字]

 帰りがこの時間になると、道は色々な匂いに包まれる。

 ごま油、焼き魚、味噌汁、なにより一番強いのは、カレーライスだ。

 それに混じって、石鹸の香り。

 今頃我が家でも、母が台所に立ち、父が弟を風呂に入れているだろうか。


 私は路地と路地の交差する地点で立ち止まる。


 子供達のはしゃぐ声、包丁がまな板を叩く音、水の流れる音。



「すぅーーはぁーー」



 伸びながら、大きく息を吸って、吐く。

 肺の中の空気が電車の中の物から、この町の物に置き換わる感覚。



「なぁにしてんのよ」


「あ、みっちゃん。おかえり~」



 伸びたまま、視線だけを横へ滑らせる。

 彼女は隣人だ。

 そして、クラスメイトでもある。



「ただいま、おかえり」


「ただいまぁ」



 彼女は私と同じセーラー服に身を包み、しかし私とは違う人間だ。

 私は髪が短くてくるくるで少し茶色みがかっていて、彼女の髪は長くて真っ直ぐで真っ黒だ。

 彼女に私の秘め事を伝えてみようか。

 彼女は笑うだろうか。

 それとも、困る?



「あたしがなにしてるか、知りたい?」


「教える気、ないくせに」


「ばれてら」


 もう少し、もう少しだけ、私はこの町に、溶けていたい。

 大きな秘密を、胸に抱えたまま。


 彼女は私が伸びを止めるまで、隣に、居てくれた。






お題:女・カレーライス。秘め事

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