未練はありません [226文字]

 まるで私の心の中みたいだ。

 曇天を見上げ、独りごちる。


 もう、何もない。

 私には、何も。


 橋の中ほど、欄干に身を凭れる。

 昨日までの雨で水量の増えた川が、ざあざあと激しく流れている。


 もう、何もない。

 生きる意味も、何も。


 母も、川に身を投げたのだっけ。


 良家の子女から娼婦にまで身を落とした母は、ある時、川から引き上げられた。


 大して記憶にないけれど、母の腕の中に包まれる気分になれるかもしれない。

 そんな事を考えた自分に苦笑いを一つ零し、私は濁った川へと、身を、投げた。






お題:曇天・身を落とす・欄干

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