開いた蓋の中身 [540文字]
ある日から、変な夢を見るようになった。
きっかけはなんだったか、もう覚えていない。
初めは、暗闇に立っていた。
遠くに小さな灯りが見えて、それだけだった。
毎日、同じ暗闇にいる。
違うのは、灯りがどんどんと近付いているということ。
夢を見始めて一週間くらいで、灯りの下に石棺が置かれているのが見えた。
二週間もすると、その石棺に施された見事な装飾がハッキリと見えるようになった。
その石棺は石で出来ているにも関わらず酷く美しくて、その中に眠る誰かに嫉妬した。
得体の知れない夢に感じていた恐怖も今は羨望に刷り代わり、触れられるようになった石棺を毎日、指で撫でる。
細やかな凹凸を指の腹に感じ、溜息を吐く。
なんと美しい石棺だろう。
中に、中に入らせてくれ。
かり、かり、と蓋を爪で引っ掻いても何の反応もなく。
無理やり開けようとしてもびくともせず。
中に、中に。
あぁ、どうやったらこの美しい石棺の中へ横たわることが出来るのか。
どうにも我慢ならなくなって、起きている間にも石棺が頭から離れなくなって、彼女に相談した。
初めは携帯片手に聞いていた彼女が途中から震え出したことに気付き、どうしたのかと訊ねる。
彼女は私の手を振り払い、叫んだ。
「あ……あんたが私の悪夢の原因だったのか……っ!」
あぁ、石棺の蓋が、開いたよ。
お題::石棺・羨望・悪夢
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