ここは宝石の海 [304文字]

 夕方のプールは正常な思考回路を狂わせる。


 図書室で文庫本を読んでいた筈の僕が、何故、今プールの中でずぶ濡れになっているのか。


 それは、僕を見て爆笑している少女のせいである。

 僕の手を掴んでプールに引き摺りこんだ、水泳部エースの、せい。



「わははは! 手を振ったら気付くかなと思ったけど、まさかプールサイドまで来てくれるとはね!」


「うるさいな」


「ずぶ濡れだね、着替えある?」


「ジャージしかないし、ノーパンで帰れってか」


「きゃー! えっちー!」


「誰のせいだよ!」



 夕日に照らされたプールの水面はまるでトパーズのよう。

 少女の瞳に乱反射して、最高級のカットを施されたみたいだなんて。


 やっぱり、僕の思考回路は狂っているみたいだった。




お題:狂う・夕方のプール・文庫本

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