飴細工の絶望 [333文字]

 もう電気も通っていない。

 暗闇の中、僕は一人。


 何から逃げて来たのだっけ。

 どこから逃げて来たのだっけ。


 置き去りにされたジンジャークッキーが僕の脚に縋り付く。

 やめてくれ、僕に他者を助ける余裕はない。


 乱暴に振り払ったジンジャークッキーの手が砕け散る。

 甘い匂いと饐えた黴の匂いが入り混じる。


 ああ、ここは寂れたお菓子工場。


 僕は、僕も、置き去りのお菓子なのだっけ。


 蜘蛛の巣だらけの窓ガラス。

 映る姿を見なければ、僕は何者でもないままでいられる?


 どうしたらいいのか分からない。

 誰かの助けを待っている時間もない。


 もうすぐ、夏が来る。


 扉を閉めたままだった冷凍庫は馬鹿なアイスが開けてしまった。


 もうすぐ、夏が来る。


 溶ける前に、何処か、ああ、僕は。

 溶けた足が、地面に。


 誰か。

 誰か僕を。


 助けて。






お題:クッキー・置き去り・縋る

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