虹の龍 [400文字]

「やはり陸の民は愚かよな。見返りなど求めなければ永久に天空に居られたものを」


「可哀想なのは姫様じゃ、彼の者に入れ込んでおったじゃろう」


「あぁ、だが女神の逆鱗に触れては父王様も追放せざるを得まい」


「陸の民の血が入る事で新しい流れをと望んでおった連中も、さぞ落胆したことじゃろう」


「実はな……此度の事件、純血派の奴等が仕組んだものなのではという噂が立っておるのだ」


「なんと」


「その噂、絶対に姫様の耳には入れぬよう取り計らってくれぬか。もうこれ以上、あのお顔が悲しみに翳るのを見たくはないのだ」


「承知しましたぞ大臣閣下」


「時の流れが解決してくれる事を、願うばかりだ」



 姫の涙は地上界に降り注ぎ、追放された陸の民の青年はその雫を浴びた。

 身に覚えのない罪で永久に天空へ昇れなくなった青年は一人、山へと消えたという。


 数百年の後。


 雨雲一つない晴天にも関わらず雨の降る正午、天に昇る一匹の龍がいた事を知る者は、いない。




お題:陸・見返り・新しい流れ・悲恋

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