月と少女と希薄なメガネ [999文字]
俺、
歩く度に吐いてしまう溜息は、日々、減ることはない。
「はぁ、どうして俺ってこんなにモテるんだろう……もっと地味になりたいぜ……」
告白されない日は皆無。
ストーカーは日常茶飯事。
女家族の中で育った俺は、むしろ女が苦手なくらいなのに。
これが何故かモテる。
死ぬほどモテる。
再び吐き出した息が溜息に変わる直前、俺の目の前に転がり出てきたのは月の光に照らされて輝く乳白色の仮面だった。
目元しか隠されていないタイプの仮面の下に覗く瞳はキラキラと輝き、つんと上を向いた形のいい鼻、桃色に艷めく唇はにっこりと三日月を描いている。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!華麗で美麗な謎の少女、しかしてその正体は〜〜〜〜」
「月本だろ」
自称謎の少女は、どこからどう見てもクラスメイトの
「ちちち違う違う! 月光仮面!」
「だっさ」
「うるせぇ!お前にぴったりのアイテムやろうとしてんだから黙れや!」
「えええ、無茶苦茶だなお前」
「ほらこれ」
月本の差し出す手の上には、何の変哲もない眼鏡が乗っていた。
「なにこれ、メガネ?」
「かけると存在感が希薄になる、き〜は〜く〜め〜が〜ね〜」
「だせぇ」
「あああああ一度もかけずに返さないで」
「ってゆーか、何だよお前、ストーカーか?」
「誰があんたなんか! いいからこれかけてコンビニ行ってこいよ! お礼は牛乳とあんパンでいいからね」
俺はしぶしぶ眼鏡をかけ、普段は曲がらない路地を曲がってコンビニへと向かった。
コンビニでは大抵、買った覚えのないチキンや肉まんがサービスされる。
ついでに連絡先の書かれたメモも。
俺は半信半疑でコンビニに入り、そして眼鏡の効果を実感した。
俺は牛乳もあんパンも万引きできそうなくらい(ちゃんと払った)存在感が希薄になっていて、誰も俺に視線を送ってこない。
俺はテンションだだ上がりのまま、コンビニの前で待っていた月本を抱きしめた。
「ちよちょちょ、やめてよ私たちそういう関係になるにはお互いをまだ全然知らな「ヤベーよこの眼鏡! 最高!!!!! これホントにくれるのか? お礼、牛乳とあんパンだけでいいのか?」
「ちょ、ちょっと落ち着いて……びーくーる、びーくーる……まず、それはあげる。私には必要ないものだし。あと、お礼だけど……」
「うん?」
「この牛乳、一口飲んで。残りは私が飲むから、大事に」
「ストーカーよりタチが悪いわ!!!!!!」
【おわれ】
お題:月・少女・希薄なメガネ
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