政権エクスカリバーを抜いた俺の成り上がり政治家物語? [1,340文字]

「総理! 今日の風船は黄色ですが、金融機関との問題に蹴りをつけるという意志の現れでしょうか!」


「いえ、秘書のミスです」


「秘書といえば素性の知れぬ少年を抜擢したということですが」


「信頼出来る者に秘書を任せただけのこと」


「ですが赤色の風船を用意出来なかったというのは問題では?」


「会議の時間です、失礼します」


「総理!」


「総理!」



 あぁ、煩わしい。

 もういっそ言ってしまいたい。

 総理になるべきなのは、私ではなく彼なのだと。

 私ではなく彼が、政権エクスカリバーを、台座から抜き放ったのだと。


 けれど彼はまだ幼く、矢面に立てばすぐに潰されてしまうだろう。

 だから言えない。

 言ってはいけない。

 彼を守れるのは、私だけなのだから。


____



 総理大臣官邸には、手付かずの金品が数多く眠っている。


 そんな話を聞いて、俺は官邸への侵入を決意した。

 父さんも母さんも死に、明日を迎えられるかも定かではない俺にとって、捕まって刑務所に入れるのならそれでも良かった。


 俺はゴーグルを付け、なけなしの金をはたいて買ったフック付きのロープを投げて裏手の壁を登った。


 きょろりと辺りを見回すが、人影はない。

 警報が鳴ることもなかった。


 一度も入ったことのない施設の筈なのに、なにかに導かれるようにして、俺は迷うことなく地下への階段を降りる。

 やけに重々しい扉を開けると、そこには神々しい一本のつるぎがあった。

 それは台座に刺さっていて、装飾が美しい。

 一目見て、価値の高さが分かる。


 俺はその柄を握った。

 その瞬間、全身の毛が逆立つ。

 思わず手を離そうとしたが、剣はあまりにも呆気なく台座から抜けてしまった。


 剣を抜いた勢いのまま、尻からコケた俺の耳に飛び込んできたのは、大音量の警報。

 ヤバいと思う間もなく、部屋に大量の警備員がなだれ込んできた。


「ご、ご、ごめんなさい金目の物がないかと思って忍び込んだだけだったんですっていや、違う違う、俺は別に不審者でもなんでもないんです信じてください!!!!」


 強面の警備員に囲まれた俺はべそをかきながら必死に謝った。

 尻からコケた俺の手には、古びた剣。

 元々台座に刺さっていたソレは圧倒的な存在感を持っていた。


 土下座を決め込む俺の耳に、バタバタと足音が聞こえて来る。


「何事ですか! って、ええええええエクスカリバー抜けてるぅぅぅぅぅ!???!!??!!?!」


 エクスカリバー?

 これが?

 それって、俺、選ばれし者ってやつ?

 え、え、もしかして総理大臣とかになれちゃったりする?

 青い風船を握りしめて驚愕の表情で俺を見る美人さんと、お近付きになれたりとかする?


 そんな俺の淡い期待は、次の言葉で即座に木っ端微塵になる。


「いいえ、いけません。こんな得体の知れない少年に総理になられてはこの国は終わりです」


「辛辣ぅ」


「いいですね皆さん、これを抜いたのは、私です。彼は私の遠縁ということにしましょう。総理には、私がなります。嘘はいつか明るみに出るでしょうが、その時まで、彼を一人前の政治家に仕立て上げるのです!」


 そう宣言する彼女の目は、本気マジだった。


 え?

 やっぱ俺、政治家になるの?


 これは、ひょんなことから政権エクスカリバーを抜いてしまった俺と、俺を世紀の政治家に仕立てようと奮闘する彼女の、お堅いようで全くお堅くないラブコメディである。



【続かない!】



お題:政権エクスカリバー・赤色・風船・見えない主従

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