消えた魔法 [263文字]

 お兄さんはきっと、魔法使いだった。


『クリスマスの朝、プレゼントをあげよう』


 森で迷子になっていたお兄さんを街道まで案内してあげたら、お兄さんは嬉しそうに私の頭を撫でてそう言った。


 クリスマスの朝、窓の外には一面の雪。


 雪は、魔法でしか生まれない。


 魔法はいつしか消えてしまっていて、だから雪のことも、おばあちゃんから聞いて知っているだけだった。

 おばあちゃんも、おばあちゃんから聞いたと言っていて、だから雪なんて、多分何百年も降っていなかったんだ。


「ありがとう、魔法使いのお兄さん」


 私がそう呟くと、落ちる雪がキラキラと、笑った気がした。

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