とあるレストランにて [981文字]

  私

[テーブル]

ソファー席

ソファー席

[テーブル]

 女男



 彼らは白ワインのボトルを二人で飲んでいるようだった。

 テーブルに置かれた二つのワイングラス、その片方にはまだそれなりにワインが揺れている。

 少し色褪せた金色の髪をした女が、ケラケラと笑いながらワインのボトルを持った。

 やや長めの黒髪を無造作に流した男が、空のグラスを女に向ける。

 女は嬉しそうにワインを注いでいった。

 どんどんと注がれた薄い黄色の液体は、ワイングラスを予想以上に満たす。


「なくならなかった〜」

「全部入れようとすんなよ」


 男はグラスをテーブルに置くと、女の肩に自分の肩をぶつけるようにして抗議した。

 女はバランスを崩し、ボトルがテーブルに当たる。


「やめてよ〜! あぶないじゃ〜ん。わたしぃ、四杯も飲んだんだからぁ〜」


 恐らくは二人とも、酔っている。

 ボトルは殆ど空になっていて、彼らのふわふわとした声と発言からするに、そのボトルは二本目だった。

 女はボトルをテーブルに置くと、男にもたれ掛かった。

 男の頬に、頭をすり、と甘えたような仕草をした。

 男は目を細め、口角をだらしなく弛ませると女の肩を抱き寄せる。

 示し合わせたかのように女が俯きがちになり、私の目から女の顔を覆い隠すように男の頭がやってきた。


「カルボナーラお待たせ致しましたー」


 店員が私のテーブルに湯気の立つ皿を置いた。

うん。ナイスタイミング。

 私はカルボナーラに集中する。

 三種のチーズが使われているらしいカルボナーラは確かに濃厚で、ソースがもったりとパスタに絡んでくる。

 敢えてスプーンは使わず、フォークだけで食べ進める。


 美味しい。

 美味しいなぁカルボナーラ。


「やぁだ、こんなとこでだぁめ」


 そんな声は聞こえない。

 美味しいなぁ、カルボナーラ。


 絶対に見てやるもんか。

 そう思っているのに、水を飲むために顔を上げた私の視線は勝手に彼らの方をチラリと確認してしまう。


 うん。

 胸を揉むのはいいけれど、おうちでやろうね?


 私は無心で水を飲み干し、皿に残るパスタをずるずると啜った。


 っしゃあ!会計じゃおらぁ!


 私は下を向いたままコートを身に付け、マフラーをし、鞄を持ってレジへと向かった。


「あの人絶対見てたよぉ」


 こらこら、私の目は正面に二つ付いてるんだぞ。

 会計を済ませ、足早に店を出る。


 ……暫くはこの店、来るのやめよう。


 扉の外は、冷たい風が吹いていた。


【完】



※この物語は1割フィクションです※

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