こんな夜に聴きたい曲 [265文字]

 電車のドアが開いた瞬間、突き刺すような冷気が鼻と頬に触れる。

 マフラーに埋めた首と口元。毛糸の帽子に埋まった頭とおでこ。

 無防備な鼻と頬だけがピリピリと痛い。


 手袋はスマホが使えるやつ。

 防具を身に付けたままの私は、スマホを取り出して音楽アプリを立ち上げる。


 こんな寒い夜に聴きたい曲があるんだ。


 吐いた息が凍ってしまいそうな夜に。

 雲ひとつない夜空に星が煌めく夜に。


 こんな夜に聴きたい曲が、あるんだよ。


 私の鼓膜を揺らす重低音。

 世界の全てが音楽に飲み込まれていくような感覚。


 ボーカルの少し優しくて、だけど鋭く低い声が、この寒い夜にはお似合いだ。

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