死神と呼ばれた少女 [345文字]

 男は絶望した。


 目の前に唐突に姿を現した漆黒のドレスを身にまとった少女。

 月明かりが照らす森の中で、そこだけがぽっかりと月光に嫌われたように黒く塗りつぶされている。


 カチカチと何かの音がして、それが自分の歯と歯がぶつかり合っている音だと気付いた時には、もう奈落は寸前まで迫っていた。


「わたくしのお家、ひろぉいお庭に立派な樹木が沢山ありますの。肥料は、いくらあっても困りませんわ?」


 少女が微笑む。

 まるで聖母のような慈愛に満ちた微笑みであるのに、その瞳には底が見えない。


 ああ、せめて。

 せめて楡の木の下に埋めてくれ。


「嫌だわじいや、肥料の癖にわたくしに口を聞いたわよ」

「もう、縫い付けてございます」

「んっ!?」


 もう口は、開かなかった。

 身体の自由も、利かなかった。


 ただ、暗闇だけが、男を優しく包み込んだ。

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