第四十二話 金曜日 朝の刻 〜決意の朝

 冴鬼のおかげで、本当にぐっすり眠れた。

 まるで耳栓をつけてたみたい。

 内側から聞こえる声にほとほとまいってたけど、冴鬼のお守りはすごい効果がある。


「胸ポケットにいれておこ」


 上着のポケットにそれをしまうと、ぼくの部屋はもちろん、兄の部屋の窓を開けてから、リビングへとおりていく。

 やはり兄は早起きで、すでに朝食を食べはじめていた。


「凌、おはよ」

「おはよ、兄ちゃん」

「凌、ほら、パン焼けたから食べなさい」

「はーい」


 トレイにのせられたパンとココアに、目玉焼きがある。

 ぼくは目玉焼きは醤油派。パンの日でも醤油だ!


「うっわ、また醤油かけてる」


 兄は塩派だ。

 うちの家族は醤油派とソース派、そして兄の塩派が存在している。

 ちなみに父は醤油とソースをいったりきたりする、浮遊層だ。


「いいじゃん。バターがたっぷりしみたパンに醤油がからんだ黄身がすきなの!」

「きも」

「うるさい」

「うるさいのはあんたたち。早く食べて準備しなさい」


 母の声に、ぼくたちは味わいながらもテキパキ食べおえると、使った食器をながしにおいて、朝の準備にとりかかる。


 ぼくは目視で確認しおえると、部屋をでた。

 なぜか兄も同時にでてくるのに笑ってしまう。

 リビングのドアをあけて声をかけると、父が食事中。今日は、ソースにマヨネーズの気分だったよう。やはり浮遊層、コンビネーション技もそなえている。


「凌、新、気をつけてな」

「ふたりとも、いってらっしゃい」


 ぼくは靴をはきながら、深呼吸をする。



 ……この日常を、崩しちゃいけない。

 ぼくが、この時間を守るんだ──!



 しっかり前をむいて玄関ドアをあけると、門の前で手を上げる人がいる。

 冴鬼だ。さらにひょっこり現れたのは、橘だった。


「おはよ、ふたりとも。橘、わざわざありがと」

「いや、あたしは……その、だし!」

「そうだよね」


 兄は、ぼくらをみてから、手を上げた。


「サキくん、おはよ。ごはん、また食いにこいよ。橘の妹だよな? 凌のこと、よろしくぅ〜」

「ちょっと兄ちゃんっ!」

「先に行ってるな」


 兄が歩きだした先に、橘先輩が……

 な、なんと! 兄から話しかけてるっ!!

 ……これは、弟をダシにしての会話だろうか。


「ま、いっか」

「なにが『いっか』なんだ、凌よ」

「ううん。本当に大したことない」


 それよりも橘だ。

 ずっと顔は赤いし、なんだか息も荒い。


「どうしたの、橘?」

「ち、ちがっ!……はぁ……新先輩って、カッコいいよね」


 橘からそんな言葉が発せられるとは……!


「凌くんは、似てるけど、ちょっと違うよね……」


 そこ、ぼくにいわれても!

 でも兄とならぶ橘先輩は、なんか様になってる感はある。

 それは兄の背が高いから、じゃないのかな……?

 たしかに、ぼくにとってカッコいい兄ちゃんだけど、女子からそう見えるなんて思ってもみなかった。


「確かに違うね。兄ちゃんみたいになれるとは思えない」

「それをいうならあたしも。あんなユリちゃんみたいなれないと思う」


 お互いの未来像を重ねてみたけど、あまりに現実離れしてる。

 お互いに大きなため息をつくと、冴鬼が肩を叩いてくる。


「ほら、今日で決着だぞ? 凌よ、指の動きはどうだ?」


 ぼくらは冴鬼におされるように学校へむかっていく。

 一歩踏みだすたびに思うことは、



 今日、呪いを倒す──!



 ぼくらの気持ちは、今、そこに集中していた。

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