第二十七話 水曜日 夕の刻 〜タイミングが全て悪い!

 なんと冴鬼が宿題をおえたのは16時にせまるころ……

 がっくりとうなだれちゃうけど、津宮先生がひどいんだ!

 宿題では『3回書き写し』だったのに、冴鬼には『5回書き写し』を命じていた。

 新たに書きなれていない単語を5回も書くとなると、時間がかかってもしかたがない。


「終わったぞぉ!」

「津宮先生のとこに持っていって!」

「おうっ!」


 冴鬼が急いで職員室へ行っている間に、ぼくらはすぐに出られるように準備をととのえる。


「図書室よってからだと、ばっちり黄昏刻にハマりそう」


 ボヤいたのは橘だ。

 きっと冴鬼は提出だけではなく、お小言ももらってくるだろうから、その分、時間はよけいにかかる。


「でも図書室行かないで向かうわけにもねぇ」


 机を並べなおしながら、冴鬼を待つこと20分───


「凌くん、迎えにいったほうがよくない?」

「そうだね」


 廊下をきゅるりと鳴らして現れたのは冴鬼だ。


「よし! 行くぞっ!」


 カバンをひっつかむと、図書室へと走っていく。ぼくらはそれをおいかけるけど、本当に早い。

 半開きになった図書室の戸をあけ進むと、銀水先生が他の生徒と話し込んでいる。

 どうも図書委員の集まりがあったようで、そのお話のようだ。


「これは待つしかないかな……」


 ……とはいうものの、銀水先生もソワソワしている。

 だけど、生徒をムシするわけにもいかず、ぼくらの方をチラチラうかがいながらタイミングを図っている。

 ……とはいえ、ここでもう30分をまわりそうとなったとき、


「我慢できんっ」


 冴鬼が立ち上がった。


「凌に蜜花よ、参ろうぞっ!」


 ぼくらはひき止めるけど、冴鬼の目はまっすぐ祠にむいている。


「今日、呪いをとくのだろ?」

「確かにそうだけど……」

「危険な時刻に敵地にいくのはまずい。もう今しかないっ」


 ここから向かうのにも時間はかかる。

 たしかに、ギリギリの時間なのはわかる!


 でも……


「わかった。行こう、凌くん」

「え、橘も!? でもさ、どうするつもり?」

「行けばどうにかなるでしょ!」

「その確信はどこから……?」


 橘は冴鬼をみた。

 案があるんでしょ? と視線がうったえている。


「もちろん!」


 冴鬼が仁王立ちでぼくをみると、ふふんと胸をはった。


「フジがな、その祠を徹底的に壊せばいいかも、といっておってな。祠から呪いが出入りしているだろうから、それを壊せば新と百合花の呪いは消えるはずだ。それによって、呪いを実行した人間にだ呪いが返る。そうなれば、こっちのものよ」

「どういうこと?」

「呪いをといて助けてやる! とでもいってやれば、自ずとでてくるだろう?」


 ……とても合理的な考え方だ。


「でもさ、でもさ、銀水先生も『そうは問屋が卸さない』っていってたじゃん」

「……だが、二人の呪いを早くとかねばならん。わしが今祓っているのは上っ面だ。どんどん呪いは濃くなるぞ」


 呪いが濃くなる……

 冴鬼がしているのは、ズボンについた泥をはたいて飛ばしたようなもの。汚れは落ちていないんだ……


「わかった。行こう」


 立ち上がったぼくらに、銀水先生は何かいおうとしているけれど、その声は僕らには届かない。

 なぜならぼくらはもう頭のなかは、呪いをとくことでいっぱいだったから。

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