第二十三話 水曜日 朝の刻・弐 〜司令室にて

 急いで着いた学校にぼくらは、すばやく上履きにはきかえ、図書室へとむかう。


「図書室、開いてるかな」


 ぼくが戸に手をかける瞬間、がらりと開いた。


「おはよ、凌くん! 冴鬼がお世話になったねぇ」


 ずいっと顔をよせて話してくるけど、あいかわらず登場の仕方が唐突です!


「……お、はようございます。いえ、ぜんぜん、両親も兄も喜んでたし」


 のけぞる背が痛いし、顔が近い! 近すぎるっ!!


「それならよかったぁ。あ、昨日、冴鬼から猫がたくさんの祠を見つけたって。猫の話ばっかりでぜんぜんピンときてないんだけどぉ」


 くるりと冴鬼を見ると、昨日の記憶がよみがえったのか、にっこり顔だ。


「いやぁ、かわいかったなぁ、凌よ」

「冴鬼、もっと祠の話しないと」

「なぜだ? 楽しい話が一番いいに決まってるだろ」

「解決しなきゃでしょ?」

「もうあとは呪いをはったおせばいいだけだろ」

「そんなにカンタンかな?」


 ぼくと冴鬼は図書室へ入ると、昨日と同じ場所に腰をおろした。


「そうは問屋が卸さないっていうでしょ?」


 先生はカラカラとホワイトボードをとりだし、『祠』と書き足した。


「ここに猫と、壊れた祠、他にあったものはあるかしら?」

「お米と塩が入った皿がありました。なんか、血がついてて……」


 一瞬空気が凍る。

 先生の目つきがするどい。


「あ、やっぱり、ここにいた! あたし抜きで作戦会議しないでよっ」


 いきなりドアが開いたことに驚くけど、地団駄の音にぼくは笑ってしまう。


「橘、おはよ。抜かしたわけじゃないよ。朝、冴鬼といっしょだったんだ」

「蜜花よ、猫は?!」

「連れてこれるわけないでしょ! バカ?」

「バカとはなんだ! お主の猫がかわいいから、愛でてやろうというのではないか!」

「そりゃうちの猫はめっちゃめちゃカワイイけど! ダメなのっ」

「もう、ミツちゃんだったら。えっとぉ、冴鬼くんだよね? 今度うちに遊びにきて。見せてあげる」

「お! 優しいな百合花は!」


 橘の後ろから現れたのは橘先輩だ。

 両足、右腕が真っ黒にそまってる。


「猫の毛かな……」


 冴鬼が右腕と、膝のあたりに手をかざす。


「ちょっと安倍くん、ユリちゃんに近づきすぎっ!」


 肩をつきとばされる冴鬼だが、びくともしない。


「え、ちょっと、あんた強くない!?」

「ん? わしは力をいれとらんぞ」

「……あれ、ミツちゃん、なんか体が軽くなったかも」

「うそ! よかったね、ユリちゃん。あ、銀水先生、本の返却」

「あ〜、はいはい。橘さんは読むのが早いねぇ。返却ありがと。さ、蜜花ちゃんもきて! 作戦会議するよ〜」

「うん。じゃ、ユリちゃん、これから作戦会議だから!」


 橘の声に先輩が笑ってる。


「なんの作戦会議かわからないけど、頑張ってね、ミツちゃん」

「うん、まかせてっ!」


 橘が大きく胸をはってみせる。

 いつもの橘なんだろうけど、でも、がんばってるようにも見える。

 だって、橘の手が、強く強くにぎられてる。

 橘も、先輩のために必死なんだ。

 ……そうだよな、ぼくも頑張らないと……!


「じゃ、橘、昨日のおさらいしよ」


 ぼくが声をかけると、冴鬼と橘が奥のテーブルまで走ってくる。

 まるで席とりゲームだ。

 ガタガタと2人ですわるけど、冴鬼はカバンから宿題をとりだしている。


「お主たちよ、これも……」

「はぁ? あんた今日の宿題じゃん。単語やってないの?」

「文字が読めん」

「あんた、ほんとに外国人?」

「そうだが!」


 あまりの自信に、橘も声がつまっている。

 ぶつぶついいつつも、教えだすのが橘らしいかも。


「ね、凌くん、他になにか気づいたことあった?」


 再び先生の顔の接近にぼくはおどろくけど、他になにか気づいたこと……


「竹やぶのなかは、よどんだ感じはなかったです。呪いがいるのかとも思ったけど、いなくて」

「なるほどねえ〜。祠と壊れた石と、血のついた塩と米。あとたくさんの猫ちゃん……」


 先生はボードに書きこんでいくけど、どれもつながりがみえない。


「もう、呪いを捕まえるしかないかなぁ〜。さ、時間だから、放課後にまた来てちょうだい」


 ぼくたちは追いだされるように教室へ行くけど、まだ解決の糸口が見えない。



 でも、今日、呪いをとくんだ……!



 ぼくはこの気持ちだけは決めていた。

 だけど、これが大きな間違いだったことに、ぼくらはあとから気づくんだ───


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