肆 SEVEN WONDERS OF 神奈備高校(五)
「――四つ目〝一段増える階段〟だ」
四番目は北校舎の西隅にある、一階と二階を結ぶ階段であった。
「これも七不思議の定番だな。夜、この階段が何段あるか数えると、いつもより一段増えてるというアレだ」
誰もが知ってるよく聞くタイプの話ではあるが、一応、これまでの慣習に倣って、梨莉花が簡潔に説明する。
「……ま、普通に階段ですね」
ここも今見た限りではなんの変哲もない、ただの、ごくごくありふれた普通の階段である。
もちろん、段数が変わるなんていう物理法則を無視した超自然現象が起こるようにもとても思えない。
「本来は10段のものが夜になると11段になっているということだが……念のため、何段あるか数えてみるか?」
それでも、せっかく来たのだからということで、とりあえず真奈達は階段の段数を数えてみることにした。
「じゃ、数えてみるぞ? 1、2、3、4…」
三人は横一列に並び、一段ずつ上がりながら一番上の段まで声を出して数てみる。
「…5、6、7、8、9……10」
しかし、当然のことながら一段増えているなどということもなければ、何か他におもしろいようなことが起きるわけでもない。
「…………異常ありませんね」
「ああ……」
「ハァ……」×3
三人は、またしても強い脱力感に襲われた。
「だ、だが、ここも七不思議の一つに数えられている以上、きっとどこかに梵字が書かれた物があるはずだ! そうだな、例えばそこの絵とか……」
下がったテンションを上げるため、梨莉花は無理やり気合を入れて適当に言ってみる。
「ええ~この絵ですかあ?」
清彦は疑わしげに、梨莉花が指さす階段の中腹あたりの壁に掛けられた絵の方へと顔を向ける。
その絵は100号ほどもある大きなもので、絵自体はよくありがちな山を描いた風景画である。やはり、これといって変わった様子などどこにも見当たらない。
「これまでのことからして、その裏に梵字があるということは充分考えられる」
梨莉花の言葉に清彦は階段を数段下りると、その絵の額に手をかけて裏側を覗き込もうとする。
「まあ、確かにありがちな展開ですけど、なんの変哲もないただの絵ですよ? いくらなんでもそんな簡単に…………あった」
皆の予想に反し、覗き込んだその絵の裏側には見憶えのある紙を剥がしたような跡がくっきりと残っていた。
これまで同様、紙の剥ぎ残りがまだ貼り付いたままになっており、そこにはやはり梵字と思しき字の書かれた墨跡が確認できる。
「本当にあったんだ……」
予想外にもあっさり見付かってしまい、同じく傍に寄って覗き込んだ真奈は、ポカンと呆けた顔をしてそれを見つめる。
「………ほ、ほら、やっぱりあったじゃないか。私の読み通りだ」
そう口では言しているものの、言い出しっぺの梨莉花自身、実はかなり驚いている様子である。
「……なんか、こうあっけなく見付かってしまうと拍子抜けですね」
「ま、まあ、たまにはそんなこともある……それより、早く写真を撮って次に行こう」
同じく唖然としている清彦にそう答え、梨莉花はしゃがみ込んで絵の裏側に下からスマホを向けると、今度も梵字の残欠を写真に収め、早々、次の場所へと向った――。
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