第25話.フラグ


「次はどこに行こっか」

「任せる」


 どうしよう。

 任せてもらえるのはいいけれど、これといっていい場所が思いつかない。

 普段カップルはどうやって一日デートを遂行しているんだ? ノリアルのように自然の中を馬車でゆっくり移動して会話を楽しむなんていうのはできないしな……。


「石島さん、どうしましょう」

『手ごろな店を探しておく』


 少しはアクションゲームより恋愛ゲームをやっておくべきだったか。

 これまでの経験から思い出すにも、セルファとは異世界でデートしていたから参考にならない。

 ボウリングでもするか? それともショッピング?

 平日でも人は多そうなところしか浮かばないな、なるべく人が少ない場所に行きたい。

 いつ彼女が襲ってくるか分からないのだし。


「散歩でもしながら考えようか」

「うん」


 たまにはのんびりね。

 その間にどこか楽しくなれるとこを探しておくから。

 ひと気のない道を進み、周辺を意識しながらの散歩は意外と疲れる。

 石島さん達が見守ってくれているとわかっていても、警戒心は緩めてはいけない。


「風」

「ん?」

「心地いい」

「ああ、そうだね。天気もいいしただこうやって散歩するのも悪くないね」


 彼女はそれなりに楽しめてはいるのかな?

 いいや楽しめるはずもないか、命を狙われているのだ。

 だからこそ少しでも不安を取り除いてやるのが俺の役目なのだが、如何せんこの手には疎いのがね……。


「……ごめんな。楽しいデートにもしたいんだけど、なんにも思いつかなくて」

「こうしてるだけで、楽しい」

「え? そ、そう?」

「楽しい」


 それならこっちも嬉しいんだけど、散歩だけだと物足りなさもないだろうか。

 でも本来の目的を優先すれば、楽しみすぎるのも考えものではあるが。


『この先に喫茶店がある、チェック済みだ。そこで一息つくといい』


 石島さんからの救いの指令。

 よかった。ぶらぶらと散歩していても異常なし、このままだと午前中を只管散歩に費やしてしまうところであった。


「ここに入ろうか」


 喫茶店には客は俺達以外は二人だけ、中途半端な午前の時間帯はこの程度が普通か。

 店内はレトロチックでクラシック? の音楽が流れていた。

 コーヒーの香りが優しく漂っている。いいね、こういう店は。

 扉を閉めると外の生活音は遮断され、店の落ち着いた雰囲気に包み込まれていく。

 コーヒーを注文して休憩としよう。


「敵が狙っているかもしれないデートは気が抜けないなあ……」

「楽しもう」

「まあ楽しめばそれはそれで、作戦の成功にも繋がるのだけどね」


 今日の君は結構微笑を浮かべてくれているね。

 楽しんでくれて何よりだ。


「私の心配なら、しなくてもいい」

「心配しちゃうよ、君は命を狙われてるんだよ? こんな状況のデートじゃあ楽しめないだろう?」

「大丈夫、楽しむ。やばくなったら、全力で逃げる」


 相手は全力で追っかけてくること間違いないからな。

 彼女をちゃんと守れるかは俺次第だ。


「逃げ足は、速い」

「そうなの?」

「多分」


 最後の一言がなければ少しは不安が取り除かれたんだがな。

 親指を立てているけれどその自信は一体どこから?


「中学の時は、陸上部だった」

「へえ、意外だ」

「走っている時は、喋らなくていい」

「自分の都合の良さで部活決めてない?」

「そんなことは、ない。走るのは…………好き」


 間が長いなおい。

 それと目が泳いでるぞ。


「高校で部活は?」

「面倒」

「走るのが好きだったんじゃないの?」

「それはそれ、これはこれ」

「どれがどれ?」


 中々掴めない子だ。


「そういえば高校に行ってないのは、親御さんは知ってるの?」


 口に近づけたコーヒーが、一度止まった。

 ちょいと踏み込んでみようと思ったのだが、これは聞いてはいけない質問だったか……?


「知ってる」

「何か言われたりは?」


 一人暮らしをしている時点で、あのアパートに住んでいる時点で何か事情持ちなのは確かだ。

 しかしまずったかな、この話はやめにしたほうがいいか?

 でも彼女の事は少しでも知りたい、もう少しだけ……踏み込んでみようか。


「何も言ってこない。つまり私は学校に行かなくていい」

「いやそういうことにはならないと思うんだけど。もったいないよ? 折角の高校生活だぜ、今しか出来ないんだぜ」

「私、このデート生きて帰れたら、学校に行くんだ」

「フラグ立てるのはやめようね?」


 そんなキリッとした顔で言わないでもらいたい。

 一気に危険性が増したじゃないか。

 映画だと大体この後に悲劇が待っているぞ、大丈夫かな……不安が増大だ。


「浩介は、学校、行かないの?」

「俺? ああ、俺は行かないっていうより行けないんだよね」

「どうして?」

「俺が元勇者だったり、異世界という世界があるのはもう知ってるよね?」

「うん」

「実は、二年ほど異世界にいたんだ。高校受験を控えてたのにさ、結局試験も受けれなかったよ。帰ってきたのは中途半端な時期、親とも関係は悪化して学校どころじゃないんだ」


 願わくば学校で授業を受けたいし、部活もやってみたかったけどそれは叶いそうにない。

 でももしどこか部活に入ったとして、身体能力が上がった今ならどの部でもエースになれるんじゃないか?


「そう……」

「今の生活も悪くないけどね、魔物退治で自分が社会に役に立てれるから」

「浩介、すごい」

「それほどでもないさ」


 いやはや照れますな。

 照れ隠しに、コーヒーをすする。


「異世界は、どんな、世界?」


 やっぱりみんなそこは気になるよね。

 魔物対策組織の集まりでは松谷さんや管理人さんからはちょいちょいと聞かれる。

 その時と同じ説明をするとした。


「んー……どんなっていうと、こう、有名なファンタジーゲームを想像してくれればいい。機械が一切なくて自然がいっぱい」

「空気がおいしそう」

「うん、美味しい美味しい。吸ってるだけで気分がよくなるよ」

「合法ド○ッグ」

「違うよ~?」


 言い方が悪かった。

 そんな危ない世界じゃないからね?

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