第24話.デート作戦

 俺のスケジュールは、当然ながらそのほとんどが白紙である。

 しかし今日は苑崎さんとデートという予定が入っている、デートだぜデート。羨ましいだろ。……って、はしゃいでいる場合でもないのだけどね。

 このデートは危険の伴うデートだ。

 大きな不安要素を抱えている、だって普通ありえるか? 命がけのデートなんだぜ? しかも皆に監視されてのデートだ。気分もクソもないよなあ。

 別に苑崎さんとのデートが嫌というわけではないのだが……状況が状況なんでね。とはいえ楽しみなのは変わりないが。もうちょっと別な状況でのデートをしたかったね。


「デートかあ……」


 異世界ではセルファとよくデートっぽいのはしてたが、この世界では初めてだな。

 そもそもデートする相手がいなかったからね。

 彼女をしっかりと守ってやらなくちゃ。それが今日のデートでの俺の使命でもある。

 デートという名の作戦ではあるが、作戦内容もセルファにいちゃいちゃぶりを見せ付けて発狂させて表に出させるということで――作戦と言えるのかどうかちょいと怪しくない? まあでもセルファには効果的かも。

 さあ、彼女を迎えに行こうじゃないか。

 待ち合わせ場所は隣の部屋、なんだろうねこれ。

 ノックすると少ししてゆっくりと扉が開かれる。


「おはよう。準備できた?」

「……す」


 おっとこれは……。

 ジャージ姿だ、そういえば彼女がジャージ以外を着てる姿は見たことがない。

 メイド服は持っているようだが、それを着てもらうわけにもいかないよな。


「服、これしか、ない」

「買いに行こうか。折角のデートだし」


 これはこれでよしだ。

 デートなんて何をすればいいのかわからんのだ、先ずは服を買いにいくという――デートらしい予定が一つできたじゃないか。


「さあさあ、行こう」

「ほぁ」


 ジャージを入れるために手提げバッグも持たせていざデートへ。

 緊張するなあ……。デート開始早々にいきなりセルファが動き出したり……はしないよな。


「どこかお気に入りの服屋はある?」

「ない」

「じゃあ俺の知ってる店にでも行こうか」

「うん」


 街へ向かう間、彼女は俺の手を握るのは緊張するからか、服の裾を掴んでついてきている。

 これはこれで、悪くはない。苑崎さんの可愛い一面が見れて幸せだ。


『周辺に異常はない。これからどこに向かう?』


 イヤホンからは石島さんの声が流れてくる。

 襟の裏につけていた小型マイク、これで返答ができる。

 ちなみにこれは管理人さんが用意してくれた。

 あの人は普通ではない道具をどこからともなく容易く出してくる。

 ドラ○もんか何かなのかな。出してくる道具はどれも物騒なものが多いが。


「服屋に向かいます、平日なので人は少ないでしょう」

『了解だ』


 本来デートは休日にするものだろうが、人が多いとなると俺達のデートは不都合が生じる。

 騒動に発展するかもしれない、となれば人が多ければ多いほど巻き込んでしまう可能性も高くなる。

 街中に入るまではこれといった異変もない。

 魔物が出てくる気配や魔力は今のところは感じられない。もしかしてセルファは俺達を見ていない?

 まあいい、とりあえず服だ。

 女性用の服を多く取り扱っている服屋を見つけて、石島さんに報告。

 少しばかり店の近くで待機する。


『中は異常なし。入っていいぞ』


 どの店に入るにも石島さんに報告しなくちゃいけない。

 兎に角安全第一。それは当然の事ではあるが、このデート……雰囲気も糞もないよなあ。


「気に入ったの選んでよ、お金の心配ならいらないよ」

「いいの?」

「勿論!」


 石島さんに買った物のレシートを提出すれば経費とやらで落ちるとかなんとか。

 魔物対策組織、中々お金がありますなあ。


「いいね、デートらしくなってきた」


 苑崎さんは小走りで店内を見て回っていた。

 服には興味ないのかと思ったが、意外にもじっくりと見ては吟味している。


「は、はぅ!」

「ん? どうしたのかな?」


 あらら。

 どうやら店員に声を掛けられたようだ、挙動不審になっている。

 大丈夫かな、俺が入っていったほうがいいのかな?

 なんだろうなこの世話係みたいな感じ、しかしどうしようもなく守ってやりたくなるこの衝動。

 助けに回ろうかと思ったが、何とかやりとりは出来ているようだ。

 ここは一先ず見守ってやるとしよう。

 苑崎さんは服を手に取って試着室へ入っていった。

 そんな彼女を目で追って、少しばかり思い出す。

 セルファが俺とのデートをする前の服選び、似たような光景で思い出と重なっていた。


「――お客様」

「うん?」


 そんな思い出も、店員の声によって呼び戻される。


「彼女さんが呼んでおりますよ」

「彼女?」

「あら? 違いましたか、失礼しました」

「いや、うん、彼女。彼女だよ」


 今日は苑崎さんを彼女と思って接するのがいい。

 セルファが発狂して現れてくれるのならば、どんな手でも使うべきだが……心の中には小さな棘が刺さっているかのような感覚が、芽生えていた。

 なんだろうなこれは。

 とりあえず、今は気にせずデートに集中しよう。

 試着室の前へと行く。


「どうした?」

「……自信が、ない」


 試着室のカーテンからは、彼女の顔だけが出ていた。


「大丈夫、きっと似合ってるって」

「む」


 君なら何でも似合うし、何でも着こなせると思う。

 自分を過小評価しすぎだよ苑崎さんは。

 覚悟を決めたのか、彼女はゆっくりとカーテンを引いていった。


「おおっ」


 思わず声が漏れてしまった。

 ジャージ姿しか印象のない彼女だったが、今はスカートを履いている。

 よく似合っているじゃないか。


「どう」

「最高の二文字!」

「よかった」


 表情はいつもの彼女とは変わらないような――いや、口端は若干だが上がってる。

 笑顔だ、薄らと笑顔を浮かべてる。彼女の笑顔は貴重だぜ、目に焼き付けておかねば。


「こういう服を着るのは、初めて」

「自信を持っていいよ、可愛いぜ」

「かっ」


 そんな言葉を漏らし、苑崎さんは一度俺を見ては、目線が合うや視線を落としてしまった。

 頬がちょいと赤く染まっている。照れてるな。

 うーん、そんな仕草も実に可愛いじゃないの。

 会計を済ませて店を出るや、通行人は何人かが通り過ぎ際に彼女を見ていた。

 そりゃ見るよね、可愛いんだもん、可愛いは正義なんだもん。


「変?」

「違うよ。彼らは君に見蕩れているだけ、俺もその一人さ」

「そ、そう」


 視線が気になってしまうのか、彼女は下を向いて俺の服の袖を掴んでいた。

 ああ、こういう初々しさがたまらんですわ。

 セルファとは正反対な子だ、彼女なら新しい服とあれば俺に見せるだけ見せて、褒めたら街を歩くだけ歩いて、一日中べったりだもん。

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