第22話.ニートに明日の予定を聞くのはNG。
部屋に戻って二人で片付けをする。
洗い物も終えて落ち着いたらテレビを見て――ってなんだこの生活。
よくよく思い返せば、こんな状況……夫婦か! って突っ込まれても不思議じゃない。
「は、犯人、捕まるといいねえ」
また意識したら、ちょっと緊張してしまう。
いかんいかん、今更なのだが今の状況は苑崎さんと同棲していると言っても過言ではない。
最近は日常で色々とありすぎて思考がぼんやりとしていたが、おいおいこの生活ってやばくないか?
「聞いて、いい?」
「い、いいよ? なんだい?」
「浩介は、以前、誰かと、お付き合い、を?」
「ん、俺? 付き合い、っていうか、うーんどうだろう。慕ってくれた人はいたね」
尽くしてくれたというか尽くしすぎた人が。
「その人、今は?」
「……行方不明、かな」
「なるほど」
手紙から滲み出るあの嫉妬。
もはや犯人はあの子――セルファで間違いないと本能が叫んでいる。
「俺のせいで君を巻き込んじゃって、ごめん……」
「君は、悪くない」
「でも結果的に君に迷惑をかけてるし……」
「気に、しないで」
気にしてしまうよ。
か弱い少女が、か弱いように見えて行動力がすごく個性が尖りすぎた子に狙われてるんだから。
――ピリリリ、と。
電話だ、画面には石島さんと出てる。
また魔物が出たのだろうか、だとすればここは松谷さんに苑崎さんを任せるか。
「はい、もしもし」
『今大丈夫かい?』
「大丈夫ですよ。魔物、ですか?」
『いや、そうじゃないんだがな。さっき松谷から報告を受けてな、苑崎君のことだ。手紙の話も聞いたが、送った人物は異世界の――君の関係者、か?』
「はい、確定です」
『実は先ほど周りの対応をしていたらな、勇者を探しているという人物が現れたんだ。彼女の話では異世界からやってきたらしい』
「えっ!? 俺を探してる……?」
セルファ……ではないだろう。
彼女ならお隣さんに手紙を送っていたのだから、もう俺の居場所は把握しているはずだ。
『手紙を送った人物ではないだろうが、関係者かもしれん。話を聞こうとしたんだがバイトがあるからと行ってしまってな、明日また会う約束をとりつけた』
バイト?
どうしてバイトを? この世界に来てそれなりに長く生活しているのか?
いやしかし長期ではないはず、短い時間でこの世界に順応するの早くない? 俺でも未だにバイトできていないんだぞ?
……探そうとしてないだけだろっていう言葉が聞こえてきそうだが、正論は受け付けていないのであしからず。
『明日の予定は?』
「ニートに予定を聞きますか?」
『申し訳ない』
すみませんねこちらも気を遣わせて。
如何せん、ニートなもんで。ご了承ください。
『では明日の十五時に迎えに行くよ、苑崎さんも一応連れて行きたいが彼女の予定はどうなってるか聞いてもらえないか?』
彼女なら俺の隣にいる。
テレビはつけてあるものの興味はまるでなく、俺と石島さんとの会話に聞き耳を立てている。
「苑崎さん、明日の予定は?」
「何もない」
即答だった。
もしかして苑崎さんもニートなんじゃないだろうか。
「じゃあ明日少し付き合ってくれるかな?」
「いいともー」
どうして○っていいとも風?
「大丈夫らしいです」
『よし、では明日。あっと、言い忘れてた。今日は小物の魔物しかでなくてこちらで対処できた。魔物は日々増えているのだがどうも君の住むアパートから離れたとこばかりでな』
「このあたりは安全とみていいんですかね」
『だが妙じゃないか? まるで我々をアパートから離したいかのようにも感じる』
それもそうだな。
石島さんと一緒に魔物討伐をしてわかったのだが、この人なら僅かな違和感も見逃さない。
「魔物の出現位置も、敵の意図が含まれると?」
『だとしたら着実に何かを起こす準備を進んでいるとみたほうがいい、注意してくれ』
「はい、わかりました」
石島さんと連絡を終えて、俺は窓から外を覗いてみた。
これといって何も変化はない。
こちらからでもわかるような場所に敵が潜んでいるわけはないのだが、微かな変化でも見逃したくないところだ。
苑崎さんの望遠鏡――こいつで広範囲を見てみるか?
「あ、そういえば苑崎さんっていつもこれで何を見てたの?」
「星、空、マンション」
「マンション?」
望遠鏡を覗けばマンションの居住者がちょくちょく覗ける。
引越し前に見ていたあのマンションだ。
どうせ誰も見てないとたかをくくってるのかカーテンを開いている居住者には暮らしぶりが丸分かりだ。
覗き見るのはあまりよろしい行為とは言えないがね。
「あの高層マンション、どんな人が住んでるんだろうねえ」
「マッチョが見える」
「マッチョ?」
「仕事を終えると、いつも筋トレしてる」
街中は眺められないものの高層ビルやマンションといった建物はそこそこ眺められる。
これは彼女の楽しみの一つなのかもしれない。
「そうそう、気になってたんだけどさ……」
この際だ。
今日は長い時間彼女と過ごすし、気になるものは処理しておきたい。
彼女について名前以外知らない段階から一歩踏み込んでみよう。
「普段外に出てないようだけれど……学校は? あれ、もしかして高校はもう卒業してたり?」
意外と年上だったりして。
見た目的には俺よりも年下に見えるけど、どうなんだろうか。
「在学中。最近は、あまり行っていない」
「行ってない? 理由は……その、聞いても?」
「苦手」
とだけ、彼女は呟いた。
人間関係とか、そういったものをひっくるめて苦手、ということかな。
聞いてはみたもののどうしようかな。やっぱり、この手の話は深く知ろうとするのはやめておいたほうがいいかも。
「……君は、苦手じゃない」
「そ、そう言ってもらえると、照れるね」
なんだろうなあ。
苑崎さんってどうしてもこう、世話したくなってしまう。
「私をすんなりと、受け入れてくれた」
「ご飯食べにきた時の事?」
「そう」
あの時はそんな大した事も考えていなかった気がする。
腹が減ってる子が目の前にいるのならば、見過ごせない、くらいで。
「私は……」
そこで言葉が止まる。
もしかしたら、自分から身の上話を話してくれるか?
少し期待をして、じっと彼女と視線を交差させる。
「――寝る」
「寝ちゃうか~」
だが、そんな期待とは裏腹に彼女は目をとろんとさせる。
洗面台へと、トタトタとした小さな歩調で向かい、ちゃんと歯磨きをして、洗顔をして、最後は――
「す」
その一言を言い残してお布団へ。
数秒後には寝息を立てた、寝つきが実にいいね君。
狙われているというのに、俺と一緒にいるのが安心できるのか、安らかな寝顔だ。
俺はこんな自堕落な生活のせいで夜行性になってしまった。
眠気が訪れるのはあと二時間くらいは必要だ。
念のために周辺を見回ってみるか……。
そっと部屋から出て、外に。
「まだ夜は涼しくていいな」
六月の夜はとても過ごしやすい、暑くもなく寒くもない丁度いい気温だ。
あと一ヶ月もすればきっと寝辛い夜が訪れ始めるだろう。
その時にはどんな生活になってるかな。
「浩介く~ん」
「ひぃやぁあ!?」
闇夜から人影がのっそりと出てくる。
若干死角に入り気味なのもあって飛び跳ねてしまった。
「……か、管理人さん?」
「ようやく終わったわぁ。疲れたわぁ~」
「お、お疲れ様です」
まだ箒持ってるけどそれで全部片付けたのかな。
服のいたるところに魔物の血痕が付着している、血まみれエプロン姿で街中を歩いていたら警察に引き止められる事間違いなしだ。
「石島君から聞いたわよ~。なんだか苑崎さんが大変な事になってるらしいわねぇ」
「ええ、もう……異世界の人に目をつけられて……」
「それなら道具も必要かしら」
「道具?」
なんか懐からまたごそごそと出してくる。
少しは普通の物が出てくる事を期待したい。
「これは……!」
「スタンガンよ」
「スタンガン」
少しでも、期待した俺が馬鹿だったよ。
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