第17話.リデオル戦
念願の――と言えば少々不謹慎だろうか。
日が暮れた頃、橙色がすっかり黒く染まった頃――魔物が現れた。
魔物も様々な種類がいる。
トカゲ型、獣型、鳥型、他には所謂ゴブリンやオーク、ドラゴンなどなど。
何も敵は魔物だけではなく、魔族もいるが――あのてるてる坊主は魔族かの判断はまだできていない。
魔力は感じられたが、人間なのか魔族なのか……どちらにせよ敵には変わりないのだがね。
さて、今回の魔物はというと……鳥型だ。
飛んでいると聞いてドラゴンが思い浮かんだが、よかったよ鳥型で。ドラゴンだった場合、あたり一面を火の海にされかねないほどの危険性がある。
トカゲはトカゲで、ドラゴンと同じく飛行しての攻撃や攻撃範囲から抜けて距離を取る戦い方が厄介だ、火を吹かないだけマシと言えるが大型となれば倒すのも一筋縄にはいかない。
「大きいなあ……」
「追い込むのも苦労したよ、ここらは廃工場ばかりだからある程度暴れてもらっても問題ない」
まさかあんなのも出てくるとはね。
全長はおよそ7~8メートルといったところか。そんなものが空を飛んでいるのは異世界では日常茶飯事ではあるが、この世界では大ごとだ。
あの鳥型――リデオルのほうが夜目は利く、加えて動きも俊敏。
光を嫌う性質から電灯のないこの廃工場地区では人も少なくて助かるが、はるか上空まで飛び立たれたらどこに向かっていくかは不明だ。
「決めるなら一気に、ですね」
「ああ、俺達もライトの操作に専念して君の邪魔はしない、確実にいけると思ったらやってくれ」
廃工場の物陰に隠れながら、少しずつ距離を詰めるとする。
この魔物騒動では対策部隊が結成されたという報告は二日前にきた。
少数ながらそれぞれ厳選された精鋭部隊だとか。
「浩介君、手榴弾は必要?」
ちなみに、その部隊の中には管理人さんもいる。
本当にこの人、何者なのだろう。
「いえ、大丈夫です」
「何か必要になったら遠慮なく言ってね」
「ど、どうも……」
管理人さんはいつものエプロン姿ながら、そのエプロンの下は重装備。
防弾チョッキやら肩パットやらでこれほどエプロンが浮いてしまっているファッションは無いと思う。
闇夜に融ける管理人さんの他に、集中して気配を探れば、俺達以外にも何人か潜んでいる。
対策部隊……異世界的な考えだとパーティを組んだみたいなものだが、仲間の顔もわからないのがやや複雑。
「リデオルとかいったか、あいつの弱点は?」
「雷魔法が一番効きますね」
「ほう、だから電線には近づかなかったのか」
鳥といえば電柱、だけど魔物の場合は属性の関係もあって当然ながら生態は大きく違う。
リデオルは廃工場の屋根に足を下ろしており、建物は軋んでいた。
やつの体重で今にも潰れそうだ。
「ここからは一人で行きます、俺が攻撃を始めたら周辺のライトを全部点灯させてください」
「分かった、気をつけろよ」
「はいっ」
廃工場地区の地図は頂いた、これによればリデオルが留まっている廃工場と手前にある建物は繋がっている、と。
渡り廊下のようなものがあるらしいな。それを使ってリデオルの真下まで行こう。
ただ、深夜の廃工場って怖いなあ……。
異世界にもこんな雰囲気のとこあった。死者の街とか言われて……街はグールやゾンビで溢れてて、でも誰も喋らないから終始沈黙。
魔物の他にゾンビやグールを送り出すような事は絶対にやめてもらいたいな。
「こんな中、ゾンビとかいたら最悪だよ……」
建物に入って、通路をまっすぐ。
扉を開ければ廃工場、と。
「ぬぉっ!?」
物音に軽く飛び上がってしまった。
「……猫か」
野良猫の一匹いてもおかしくないか。
隠れるにはこのあたりは最適だ。
野良猫は天井を見つめて威嚇、ここは君の縄張りだったのかな? 悪いね、うちのリデオルがお邪魔しちゃって。
「あいつすぐに倒すから、待ってろよ」
リデオルの視覚は優れているが聴覚や嗅覚は人と然程変わらない。
魔力を察知する感覚――魔覚も全然だ。
羽根をおろしているときであれば十分に奇襲できる。
「このあたりかな……」
リデオルの体重をなんとか支えているために、天井がミシミシとさっきから悲鳴を上げている。
その周辺を――
「イグリスフ」
聖剣を出現させる。
最近は自分の部屋で何度か出していたから聖剣の発現にもう不安はない。
野良猫はイグリスフの発現にびっくりして逃げてしまった、驚かせて申し訳ないな。
しかしながらこれで伸び伸びとやれるってもんだ。
「うーりゃ!」
イグリスフで天井を斬りつけた――天井が崩れるやリデオルが落下してくる。
同時に外は光で覆われ、外の変化にリデオルは怯み、光を嫌って飛び立つのをやめた。
ここまでは予定通り。
「さぁ、やろうか!」
ギィィィィイっと鳴くリデオルは、俺を目を合わせるや敵と判断して威嚇してくる。
外の光にも飛び込みたくない、暗い室内に留まる上で邪魔者は俺一人。
そら、かかってこい。
「うおっと!」
啄ばみによる攻撃、避けるや地面が深くえぐれる。
距離を取って口を開きだしたら――あれだ。
リデオルは口の中に数本の棘を隠している、牙と同じ性質のもので飛ばす事が可能だ。
咄嗟にイグリスフを盾として使って棘を防ぎ、リデオルの肩に一撃をお見舞いする。
「浅いかっ」
互いにすれ違いつつ、同時に向き合い、リデオルの爪攻撃を避けてカウンターの一閃。
苦痛に悲鳴をあげ、リデオルはようやく俺の力量を把握したらしい。
「ギィ……」
この建物を破壊して飛んで逃げるべきか、とでも考えているのか天井を仰いでいた。
「そこだっ!」
一瞬だけでも俺から目を離したのが運の尽きだ。
懐に入り込み、俺はイグリスフを振り上げる。逃げようにも後ろは壁、左右も同様。
翼を広げようにも障害物も多々。リデオルの体を一閃した――
「よしっ」
肉体強化や速度上昇などのスキルはあるもののこの程度の魔物はやはりイグリスフで事足りる。
凶悪な魔物が出てくればいくつかスキルを多用するかもしれないが、そんな機会はいつになるやら。
運動不足もあって手ごたえのある魔物とやりあいたいもんだぜ。
まあ……出てこないのがこの世界にとってはいい事なんだけどね。
「魔力も回収、と。この世界じゃあ俺って最強なのでは? ふはは~」
――なんて笑って安堵も束の間。
建物が嫌な音を立てていた。
「……ん?」
これはまさか。
まさか、だよな?
天井が少しずつ沈んでいく。
壁には亀裂が走っていた、リデオルめ……最後に棘を放ってたけど……建物の支柱を破壊してたのかよ!
「うわわわわっ!」
急いで窓へ向かう――野良猫も発見!
「来いにゃんこ!」
「ふにゃー!」
そのまま野良猫をラグビーボールのように抱えて猛ダッシュ!
窓を突き破ると同時に廃工場は崩れた。
「大丈夫か!」
「は、はい……」
「それは?」
「中にいた野良猫です……」
お前子供とかいないよな?
まあいないか、他には動物のいる気配もなかったし。
離してやるとその場から一目散に駆けて行ってしまった、命を助けたお礼に肉球くらい触らせてくれてもいいじゃない。
「あの鳥はやったか?」
「倒しました、最後のあがきで建物を崩されたのは焦りましたけど」
石島さんが安堵のため息をついた。
リデオルによる被害は今まで一番大きかったらしい、大きいのもあってよく目立つのも事情的によろしくはない。
「助かったよ。しかし……すまないな」
「え? 何がですか?」
「一般人でまだ若い君に、このように危険が伴う事件への協力をしてもらうなど、大人のやる事じゃあないんだがな……」
「でも俺じゃなきゃ解決できないのなら、喜んで協力しますよ」
それにお金も出ると聞かされちゃあやらない手はない。
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