第11話.異世界対策部門設立?

 セルファがこの世界に来ている。

 俺を追ってきてくれたというのならば、嬉しいのだけれどしかし……魔物を使って騒動を起こしているのは何故だ?

 この世界に来れたのも、魔物の騒動もあのてるてる坊主が関係しているのは間違いなさそうだが。

 てるてる坊主に洗脳でもされただとしたら厄介だな。

 敵に回られるのもそうだが、洗脳を解く必要も出てくる。その辺は直接会って分析しないとわからないな。

 あれから三日が経過した、今のところは魔物騒動も起きていない。

 毎日毎日魔物をこちらへ召喚できるというわけではないようだ。

 うちまで乗り込んでこないよな? 心配だ。

 ……プレスタ4が壊されたら絶対暴れちゃうと思う。

 すると、チャイムが鳴った。

 まさか魔物が訪ねてきたわけじゃあるまい。


「んお? 宅配便~?」

「かもね」


 相手次第では居留守を使わねば。

 勧誘系は特に相手をしたくない。


「浩介、出てちょうだい。休日の私はソファからなるべく動きたくないの」

「わかったよ」


 姉ちゃん、平日であっても帰ってくればソファからほとんど動かないじゃん。

 テレビドアフォンの画面を覗いてみる。

 玄関には男性が一人、見覚えのある姿だ。


『石島だが』

「今出ますっ」


 あの刑事さんだ。

 ……どうしたんだろう、また事件でも?


「ど、どうも……」


 玄関で対応するとした、中に入れるかは話の内容次第。

 姉ちゃんに心配させるのも……ね? 刑事が訪ねてきただなんて話したら面倒なことになるのは間違いなし。


「元気にしていたか」

「ええ、すこぶる」

「お姉さんはいるかい?」

「いますよ、居間でごろごろしてます」

「そうか……。なら、ここで話そう」


 気をつかってくれてありがたい。


「あれから化け物騒動はないんだがな、君の周辺ではそういうのは?」

「いえ、ないですね。相手が俺を狙っている可能性もあるのであまり街にも出ないようにはしてます」


 というていで。

 別にこれといって外に用はあるわけでもないから出てないだけなんだけどね。


「一人暮らしでもして様子を窺ってみるのはどうだ?」

「一人暮らしといっても……そんな金ないですよ? ご存知の通りニートなんで」


 同情するなら金をくれ。


「こっちも色々と考えててな、とりあえず今日は夕方あたり、暇かい?」

「ご存知の通りいつも暇ですよ」

「ならどっか飯でも食いながら話さないか? 奢るよ」

「行きましょう!」

「では、また夕方に来るよ」

「はい、わかりました」


 奢ってもらう事に関しては弱いのだ俺は。元勇者の唯一の弱点といったところだね。

 夜になる前に家事をみんな済ませておくか。

 話をするとなれば、やはり魔物関係だろう。進展は特に無いようだが、何かあちら側から提案でもありそうな雰囲気を感じた。


「浩介ー、誰だったのー?」

「知り合い、今日夜一緒にご飯食べようって」

「えぇ!? あんたが飯食いにいったら誰が飯作るの!?」

「その心配する?」


 姉ちゃんもたまには自分で飯作ればいいのに。


「休日は料理もしたくない!」

「……なんか作ってから出るよ」


「それならいいわ。それで、飯はどれくらいお金必要なの?」

「お金は大丈夫だよ、奢ってくれるらしいから」


 ニートになってから奢られてばかりだ。

 時は暫し流れ、日が暮れて空がすっかり濃い橙色に染まった頃。

 俺は姉ちゃんの夕食を作って石島さんを待った。

 ……一人暮らしがどうとか言っていたけど、石島さんは何が目的なんだ?

 俺を利用して何かやらかす? いやいやそんなのはありえないか。

 思考をめぐらせながら、自室で本を読む事数分。石島さんがやってきた。


「では、行こうか」

「はい、行きましょう」


 店は特に決めてはいないらしい。

 街へと歩き、適当な店に入るとした。

 俺的には向かいの店の居酒屋マッチョが非常に気になったが。


「なんでも頼んでいいぞ」

「は、はい……」


 とは言うも、遠慮してしまう。

 奢ってもらう側がバカスカと頼むのもね。

 手ごろなものを頼むとした。所謂レギュラーメニュー、ありきたりではあるけどハンバーグセット。


「それで、話というのは……」

「ああ。昼間にも言ったが、君は一人暮らししてみる気はないかい? もちろん金はこっちで出す」

「え……一人暮らししてどうしろと?」


 俺の自立への手助けを警察側がすると?

 いやいやそれはないだろう、そんな慈善活動をする組織じゃない。何か裏がありそうだ。


「敵が君を目的とするならば、一人暮らしをしてみて相手が仕掛けるか否かを様子見というのはどうかね。勿論俺達も近くにいる」


 悪く言えば、囮ってとこだが。

 しかし現状は確かに姉ちゃんを巻き込んでしまう可能性が大いにある、住んでる場所も場所なので姉ちゃんの他に、多くの住人をも巻き込むかもしれない。

 それはあまりよろしくはない。


「協力し、魔物退治なんかをしてくれれば報酬も出すと上は言っているんだが」

「ぐ、具体的な金額は……?」

「まだ決まってはいないが……魔物を一体討伐してくれるだけで、その辺のバイト情報の時給が安く見えるだろうな。そういえばバイトは決まったかい?」

「いえ、まだ」


 探してもいなかったのは内緒にしておこう。


「ならばこの話は君にとってもいいと思うんだが」

「是非協力させて下さいっ」


 誘惑には弱い。

 だって考えてもみてよ。

 退治してで報酬が出るならばそこらの安いバイトするよりいいのでは? プレスタのソフトも買えるんだぜ。

 ただの魔物程度なら俺の相手にはならないし、ノリアルでいうとおいしいクエストってとこだ。


「ああ、よかったよ。この話は内密にな。一般市民である君に協力してもらうわけだからな」

「ちなみにこの件の首謀者を捕まえた場合、その人はどうなるんです?」

「そこが悩みどころだ。君の話からすれば首謀者は異世界から来たということになる。異世界に返してそれで済む話ほど簡単に終わる話ではないだろうな」

「世界間の行き来は簡単には出来ないはずです、首謀者がどうやって行き来できているのかを問いただして、何か対策を練れるならすべきかと思います」

「ふむ……その辺もはっきりとさせんといかんな。しかし、異世界への行き方が明確になれば、様々な組織が関わってくる可能性があるな」


 この事件、解決したらまた難題が生まれそうだ。

 異世界がある――それが認知されるだけでこの世界での一つの常識も覆されるのだから。


「そして問題は君だ、異世界についての知識などを求めて君が引っ張られるのは間違いない」


 その後についてでもこの人は俺を心配してくれている。

 ほんといい刑事さんだよあんた。


「どう転んでも今後、君の存在が上まで知れ渡れば、君は普通の生活は出来なくなる可能性は高い」

「なんだか、おおごとですね……」

「君の存在は秘密裏にし、組織を立ち上げる話も出ている」


 そんなに秘密裏にしなくてもいいんじゃないかな。

 この世界でも勇者としてちやほやしてくれるのならば俺としても嬉しいんだが。

 ……なんて正直に言えるわけもなく。

 それよりも気になる単語が一つ。


「組織、ですか……?」 

「異世界対策部門ってとこだな」


 どんどん俺の知らないところで話が進んでいるな。


「未知なる脅威への対策を始め、異世界関連は俺達が主導し、国の一部がこれまで極秘に動いていたかこれから正式な組織として動く事になる」

「聞いてて思ったのですが」

「何だ?」

「石島さん、本当にただの刑事なんですか……?」


 微笑を浮かべて、

「さあ、どうだろうな」

 コーヒーを口に運んで返答はややはぐらかされた。

 石島さんが選んだ店とはいえ、周囲の客が妙だ。

 一番奥の席なのに客が集中している上に誰もがコーヒーを注文してからずっと動こうとしない。

 飯時にコーヒーばかりで料理を頼まずにいるのはおかしすぎる。

 何より纏う雰囲気は飲食を楽しむためにやってきているものではない。


「……気付いたか?」

「ええ……」


 石島さん一人だけかと思ったが、皆周囲に溶け込んでいたらしい。

 極秘の話をするに、一般の店を選んだのは俺が話しやすいようにするための気遣いであろうが、意識するとちょっと肩身が狭い。


「ああ、あと一つ。他の組織の動向は俺達も気になってるんだが……」

「どうしたんです?」


 気になる続く言葉。


「いや、そのだな……」


 言いづらそうだ。

 コーヒーを一口喉へと流してから、石島さんは口を開いた。


「化け物の件、筋者も絡んでいるらしくてな」

「……筋者って、ヤクザ?」

「ああ、当時の魔物騒動の中で奴らも動いていた。騒ぎに乗じるというより、何か目的があっての事だろう」

「となると……」

「浩介君、場合によっては君はそいつらの敵と認識される」


 目がくらむ。

 目の前に美味しそうなハンバーグが運ばれるも食欲が失せてくる。


「俺、思った以上にやばいんです?」

「場合によっては、だな」

「うーん、唐突に胃痛が! そろそろ帰ってもいいですかね!」

「まあまあ待ってくれ。あいつらの摘発に有力な情報を渡せば他の部署も組織に協力的になると考えれば、好機と取るべきだ」


 今の状況、例えるならば俺は地雷原に囲まれているようなものだ。

 下手に踏み込んだらドカン、そんな状況に飛び込むのか俺は。


「俺は一人暮らしして異世界からの敵をおびき出し、さらにヤクザもおびき出さなきゃいけない……と」

「どこで話が漏れたのかはわからんが今後、君の情報は兎に角漏れないように全力を注ぐ。身の安全は保障するよ」

「そう言っていただけると心強いですけど……」


 リスクが高いなぁ。


「……とりあえず、食べますか」


 冷静に、整理するためにも。

 お互いに食事を進める。石島さんは俺の気持ちがどう動いているのか気になっているようだ。

 何度か様子見る視線を感じた。


「そんな心配しなくても、大丈夫ですよ。協力しますから」

「そ、そうか。それはよかった」


 だってやらなきゃ駄目な雰囲気だし、何よりニートも少しは体を張らなきゃ。


「姉ちゃんにも話をしとかなくちゃなあ」

「後日俺も話をさせてもらうよ、アパートや今回の協力に関しての資料も用意してきちんと説明する」


 何がどうしてこうなったのか。

 こうして俺は一人暮らしすることになった。

 期間限定ではあるが。

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