第9話.銃刀法違反は回避

 ――どれくらいの時間が経過しただろう。

 熱心に聞いてくれるものだからこっちも熱く語ってしまった。

 喉はすっかりと渇いてしまい、温かいお茶をすすって潤いを取り戻した。


「……信じていいものか、難しいところだな」

「俺としては信じてもらうしかなく……嘘をつくメリットもないので……」


 腕を組んで、深い溜息をついていた。

 そりゃあ俺の話を信じようと努力しようにもいきなりは無理な話だ。

 信じてもらえるためにも知っている魔物の特徴などを教えていったが、おそらく表に出てない――彼らだけが知っているはずの情報も含めて話をしたので俺の説明に信憑性はあるはず。


「君の話を整理すると、大型の魔物が現れれば銃では対処は難しくなるな」

「そうなりますね」

「魔力ってのは、我々にも宿るものなのか?」

「どうでしょう……俺は異世界で魔力を使えるようにしてもらったので」

「誰にやってもらったんだ?」

「……神様に」

「神様?」


 あっちの世界には神様もいる。

 刑事さんは神様の見た目をどう想像しているかな。

 髭もじゃの爺さんとか、女神とかを想像しているかもしれないが残念ながら異世界の神様は生意気な小娘だ。

 たまに助けてもらったが今はどうしているのやら。


「まったく……ファンタジー世界の話を聞いているみたいな気分だ」

「異世界は実際ファンタジー世界と変わりないですよ」

「実際に見てみないとわからんもんでな」

「なら、証拠の一つとしてイグリスフを見せましょうか?」

「イグ……?」

「剣ですよ、ほら、俺が持ってたやつ。ちなみにマジックとかじゃあないですからね。いいですか」


 百聞は一見にしかず。

 やはりこいつを見せるのが手っ取り早い。姉ちゃんごめんな、約束破るよ。

 右手を机の上に出し、俺は集中する。

 出現の位置を考えないと卓上に置いてあるものを壊しかねない。


「よっと、イグリスフ――!」


 出してみせると、途端に刑事さんと後ろで調書取っていた方も思わず立ち上がっては驚愕の表情を浮かべていた。

 銃刀法違反で逮捕なんて事はやめてもらいたいが、大丈夫かな?


「じ、実際に見せられると、なんと、言っていいのか……。さ、触っても?」

「どうぞ」


 最初はつんつんと。

 次は刃に恐る恐る触れる。

 切れ味を試したいのか、煙草を一本取り出して刃に滑らせた。

 本物の剣かどうかの判断をするためだろうが、これくらいなら容易く斬れる、切れ味は抜群だ。


「ほ、本物だ」

「はい、本物です」

「銃刀法違反だ」

「えぇ!?」

「あぁ、いや……冗談だよ」


 笑えない冗談だよおい。


「だが君がいつでもこれを出せるというのは……危険だ」

「承知してます。だから普段は人前では出さないようにしてます」


 イグリスフは俺の手から離れると、魔力を与えない限り一分で消えるようになっている。

 そのことを話して彼にイグリスフを持たせた。


「ぐぉ……相当重いな、こんなもの、よく振れるな君は」

「俺以外の人が持つと重くなるようで」

「君専用ってわけだ」


 一分が経過し、イグリスフは消失。

 刑事さんは腕を組んで小さなため息をついた。

 何を考えているのか、実に深刻そうだ。

 そこへ刑事さんが一人入室し、書類を彼に渡して耳打ち。

 ひそひそ話の内容が気になるなあ。


「ふむ」


 と、彼は一言。

 資料を眺め終えるや一服。

 味わいながらなのか、吸うペースはやや遅い。


「君は……学校やアルバイトは、考えているのかい?」

「ぼちぼち、そのうち……」


 思わず目を逸らしてしまった。

 正直、後ろめたい。


「金銭面に悩みは?」

「いえ、ないですけど」


 お小遣いが出るんで。

 あと姉ちゃんが機嫌がいい時か酔った時もたまに。


「まさか俺がイグリスフを使って悪事を働くのでは、とか考えてたり?」

「今の生活は長続きしないだろう。もし君の環境が悪くなった場合、そういった未来も考えられる。君は剣を持ってそれを自由に出し入れできる、それだけでも、な?」

「はあ……」


 まあ銀行に突撃して金庫を斬って中の金を奪うことも可能ではある。


「これを渡しておく」


 渡された名刺には石島洋平いしじまようへいと書かれていた。

 その下には連絡先――しかし、どの課の刑事なのか……その表記はされていない。裏面には警察庁の文字とマークのみ。

 そういうものなのかな……?


「もしも、の話だがこの手の、ああー、魔物絡みの事件が起きた場合、協力してくれるか?」

「勿論、協力させてください。暇なんで」

「暇ならアルバイトくらいは探したほうがいいと思うんだが」

「くぅーん……」


 ごもっともで。

 今日はこれで終わりらしい。

 随分と長く話をしたな。

 連絡先を交換し、近いうちにまた話をしたいとの事だ。魔物絡みの事件が起きれば俺も動かないわけにはいかない。

 今日の一件は他言無用と入念に言われて解放された。

 一応セルファのことは伏せておいた。まだこの騒動は謎が多い。

 下手に話してセルファが疑われて追われるようなことだけは避けたい。

 てるてる坊主は別に追われてもいいけど。

 にしても石島さんは見た目は怖いけど普通にいい人だ、俺の心配までしてくれるなんてね。

 てかまあ。

 ニートが剣を自由に出し入れできるなんて危険人物以外なんでもないしな。

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