第5話.セルファとエヴァルフト
時は暫し戻り、某所にて。
「ここが勇者様のいた世界……」
光が満ち溢れている。
勇者様の世界はなんてまぶしいのでしょう。
建築物はどれも……高いですね、驚きです。
大地は……何かしら手が加えられているのでしょうか。土ではなく灰色の岩盤のようなものになっていますが、これは一体何なのでしょう?
……視界に入る何もかもが、私達のいた世界と違う。
これほどまでに差があるとは思いませんでしたね……。
夜でも街は人々が多く喧騒に溢れている。彼らは夜に活動する魔物達を恐れないのでしょうか。
左右にそびえるは石の壁、いえ……窓のようなものがありますね。これも建物ですね。
煉瓦でもない、継ぎ目もなくこうも綺麗な壁を作れるとは、この世界の建築技術は私の想像以上です。
奥では何かが騒音を生じながら通り過ぎてますが、あれはなんでしょう。
四角い箱? 中に人がいるようですが、馬車のようなものでしょうか。
でも肝心の馬がいません、この世界には私の知らないもので走行できる技術があるとみていいですね。
大通り、でしょうかあのあたりは。
あまり近づかないほうがいいかもしれませんね。先ずはこの世界を少しずつ理解していくとしましょう。
「すごい世界です……」
勇者様には少し、この世界については聞いていたもののこうして目の当たりにすると開いた口がふさがりません。
想像以上です……。
「どう?」
あら、そういえば同行者がおりましたね。
不気味なほど気配を消しているのでいるのかどうかも曖昧ですね貴方。
「ここが貴方の求めていた世界よ」
「でも私が求めていた方がいません」
「それはこれから探そう」
胸が高鳴ります。
「しかしこの世界、空気が少々……」
「仕方がないよこの濁りは。技術の発展は時に自然を汚してしまうの」
彼? 彼女?
駄目、声が幾重にも重なって判断できない。
人かどうかもわかりませんが、味方なのは確かです。私をこの世界に連れてきてくれた方ですしね。
でも気になるは表情を窺おうにも白い布をつけていて隠している、フードも目深にかぶっていて見られたくないような意思も感じられます。
「慣れるには暫く時間が掛かりそうです」
この方、名前は……そう、エヴァルフトでしたね。
いけない、どうも記憶が曖昧で、これは駄目な気が。
世界間の移動による体への負担もあるのでしょう、エヴァルフトはどうしてか平気そうですね……。
「――おーいこんなとこで何してんの?」
ん? どなたでしょうか。
声のするほうへと振り返ると、男性が二人。
あら、こちらの世界の人間との初めての接触です。初めては勇者様がよかったのですが。
エヴァルフトは袖から右手を出していますが、戦闘体勢? でしょうか。
もしかしてこの世界の魔物は見た目は人間と同じ? 何もかもが未知で、判断がつきません。
「お穣ちゃん、暇?」
「暇ではございません」
「変わった格好してるね、コスプレ?」
見た目からして良い印象は浮かばない。
そこらを歩いている方々は黒髪、しかし彼らは金髪、綺麗な金ではなく少々黒く濁ったような色……。
髪の色は同じであれどこか親近感が沸かない――雰囲気が、そう抱かせるのでしょうか。
「彼らは?」
「この世界ではそう……山賊やチンピラと似たようなものね」
「では退治を?」
「ここは私に任せて」
エヴァルフトは頼りになりますね。
きっとこの方はいい人です、多分、いい人です。
「去れ、下劣な奴らめ」
「おいおいなんだこいつ、てるてるぼーずかよ」
てるてるぼーずとはなんでしょうか。
興味深い単語です。しかし彼らの笑い方には一々良い印象はなく、笑いといえど私には嫌悪感を抱かせますね。
「なあなあ暇ならどっかでお茶でも、あーいや酒かな? どう? 楽しいと思うよ~?」
「去れと言ったはずだが」
「おめーが去れや、てるてるぼーずには話してねえんだよ」
男が一人、エヴァルフトの肩に手をかけた瞬間――彼は宙を一回転し、すぐ隣に聳え立つ石の建物に顔から突っ込んで叩きつけられた。
とても痛そうですが、なんだかすっきりした気分です。
「へぁ!? て、てめえ!」
ああ、なんということでしょう。
仲間の敵討ちをしようとした彼も同じ目に遭うのはわかりきっているのだから。
見ずとも、痛々しいその打撃音がどうなったのかを教えてくれますわね。
「少し雑な対応になってしまったわ」
「いえ、お見事です」
「この世界には魔物はいないけれど、彼らのような悪しき者を倒すと魔力を得られるわ」
「治安改善も兼ねる事ができていいですわね」
「ええ、でもあまり目立つとこの世界ではケイサツという組織が妨害してくるから気をつけて」
「ケイサツ……」
私のいた世界ではどのような役職の方なのでしょうか。
悪しき者を倒し、魔力を得るのも大切ですが面倒な状況に陥るのは避けたいですわ。
「ケイサツは倒しても魔力は対して得られないわ」
「であるのならば、ケイサツとはぶつかり合わないほうがよさそうですね」
情報が少ない今、下手に動かないほうがよさそうです。
しばらく情報集めにまわりましょう。
「フェイの姿が見当たらないね、はぐれたかしら」
「そういえばそうですね……」
一緒に来ていたはずなのですが。
途中ではぐれたのでしょうか。近くを見回っても彼女がいる気配もないですね。
「しかしあの子は一人でもやれる子です、大丈夫でしょう」
「では我々の元にやってくるのを待とうか」
「そうしましょう」
見捨てたとかそういうのではなく、信じた上での選択です。
フェイはしっかりものですから、心配は無用ですわ。
「では行こうか我々の拠点に。そこでこれからの計画について話し合おう」
「そうしましょう。よろしく頼みますよ、エヴァルト」
「ええ、セルファ」
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