第9話 バイキング
「がんばラッピー! がんばラッピー!」
「良かったな、妹菜」
あれから少し話をして、席が空いたということで俺たちは楓さん親子と別れた。
そして席につくなり、妹菜は上機嫌のまま、上げた両手を左右に揺らしたり体を上下させたりと謎の踊りをしている。
「うん!」
「だけどまずご飯な。ほら、母さんと一緒に行っておいで」
「はーい!」
妹菜と母さんは料理を取りに向かう。
「良かったわね、妹菜ちゃん元気になって」
「はい。すみません、二人にも気を使わせちゃって」
「別に気にしないの、りっくん。それにしても、まさか仕事で繋がりがある人が身近にいるとは……世の中狭いね」
楓さんのお父さんがどんな仕事をしているのか詳しく聞いてはいないけど、確かに仕事の関係で貰えるってどんな仕事だろうか。
そんなことを考えながら視線を動かすと、どうやら楓さんたち親子も順番待ちが来たらしい。離れた位置に座り、仲良さそうに話しているのが見えた。
「……ところで、陸斗くんは彼女とは仲が良いのかな?」
ふと、左隣に座る七海さんに聞かれた。
「いえ、前に母さんの職場で何回か話しただけですけど」
「そっかそっか、そうなんだ!」
今度は右隣に座る柚葉さんが何度も頷きながら口にする。
「えっと、なんでですか?」
「ううん、なんでもないの。それより陸斗くんも何か持って来たら?」
「そうそう、わたしたちはここで待ってるから」
疑問に思ったが、深くは聞かず二人と離れて料理を取りに行く。
このお店は高価なバイキングというよりは安価なバイキングで、家族連れや部活帰りの学生なんかで賑わっている。
料理が並んでいるスペースに行くと、いろんなお肉が乗った取り皿を持つ母さんと、ラーメンを作ろうとしている妹菜がいた。
「あっ、陸斗。ちょうどいいところに」
「どうかしたの?」
「妹菜とラーメン作るのお願いしていい? お母さん席に戻って二人と代わるから」
「うん、わかったよ」
ラーメンを作る機械は高い場所にあって妹菜の身長だと届かない。片手が塞がっているから母さんだと、妹菜を持ち上げられないということだろう。
それにこの辺りには人が多くいて、付きっきりで妹菜を見てないと危ない。
「子供用のイスがあったらいいのに」
そう思い周りを見るが、近くには見当たらない。
「おにいちゃんも、ラーメン、たべる?」
「お兄ちゃんも?」
「うん、おにいちゃんのも、つくったげる!」
「ほんと? ありがと。じゃあ頼むな」
食べたいよりもきっと、作りたい気持ちの方が上なんだろう。この後はたぶん、わたあめも人数分作りたいなんて言われるんだろうな、と思ってつい笑ってしまった。
冷蔵庫の中から麺を取り出し妹菜に渡す。小さな体を持ち上げ、それをお湯の中に沈める妹菜。
「陸斗くん、妹菜ちゃんが作るの?」
母さんと交代で料理を取りに来た七海さんに聞かれた。
「ななみせんせーも、ラーメンたべる!?」
「えっ、私も?」
「うん!」
どうやら妹菜は七海さんにも作りたいらしい。
七海さんと目が合い笑いかけると、察したのか妹菜を見て笑顔を向ける。
「うん、食べたい。妹菜ちゃん、先生の分も作ってくれる?」
「うん! まいなにまかせてっ!」
「ありがとう。あれ、陸斗くん子供用のイスは?」
「それが近くになくって。この辺、人も多くて危ないので、探しに行けなくて……」
「じゃあ持ってきてあげるから、ちょっと待ってて」
「すみません」
それから七海さんが持ってきてくれたイスを使って、妹菜が人数分のラーメンを作ってくれた。
結局は柚葉さんの分も増え、妹菜は母さんと一緒に食べるから四人分を作ることになった。
ラーメンを作り終えると、席で待っていた母さんと柚葉さんは先にお肉を焼き始めていた。
テーブルの上には他にも、お寿司とかたこ焼きとか、妹菜が好きそうな料理が並んでいる。
「うわあ!」と瞳を輝かせる妹菜を見て微笑む柚葉さんがお寿司のお皿を手に取る。
「バイキングって久しぶりに来たけど、お寿司って全部ワサビ抜きになってるんだね」
「そうなんですか?」
「うん、ワサビ嫌いな子の為にね……ありがたいね、ほんと」
うんうん頷く柚葉さん。
どうやら柚葉さんもワサビは苦手らしい。
「それじゃあ、乾杯しましょうか」
人数分のドリンクは柚葉さんが持って来てくれていた。
それぞれソフトドリンクを持ち、乾杯をして食べ始める。
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