第三章
第1話 変化する日々
テレビなんかで、有名なスポーツ選手が自分の”ルーティン”の話をしているのを見たことがある。
とある野球選手は、バッターボックスに立つまでの行動が決まっていたり、とあるサッカー選手は、試合が行われる日に何を食べるか決まっていると話していた。
それはたぶん、何度も繰り返していると無意識のうちに行動してしまうのだろう。そしてそのルーティンをしないと、気持ちが乗らなかったりするのだろう
俺──宇野陸斗にも、一日の中にルーティンと呼べるものがあった。
「……そうだった。今日は新聞配達に行かなくていい日だった」
夏休みが終わり今日から九月、高校二年の二学期が始まる。
そんな平日の早朝。
カーテンが閉められた窓の外はまだ暗い。
普通の高校生ならまだ起きていないような時間に俺は目を覚ました。
それは俺が、新聞配達に向かう為に起きなければいけない時間だからだ。
いつも決まった時間に起きて支度をする。それが一日の始まりの行動であり、俺にとって毎日欠かさずにしてきたルーティンのようなものだった。
だけど今は違う。
──時は遡ること数日前のこと。
その最終日。
俺は婚活パーティーの参加者であった綾香さんに暴言を吐いた、前原さんという男性参加者を殴ってしまった。
結果として、そのことが大きな問題になることはなかった。それは周りの大人たちが助けてくれたからだ。
だけど母さんからは怒られた。それと同時に、知り合いが困っていたのを助けたことに対して褒められ──ちゃんとした高校生活をさせてあげられなくてごめんねと、謝られた。
学校前に新聞配達をして、学校が終わったら本屋でバイトをする。その生活を俺は嫌だと思ったことはなかったが、母さんはそれを、ずっと申し訳なく思っていたそうだ。
「もう、無理して働かなくていいからね」
母さんはその日、俺に今までよりバイトの数を減らすよう勧めた。
理由としては母さんの体調が良くなったから、もう俺が代わりに働く必要はないのだという。
そして母さんは、近所のお弁当屋さんの求人に応募した。その数日後、働くことが決まった。それに関して周りの人やお医者さんも大丈夫だろうと言ってくれた。
──普通の高校生活を送れるように、これからはお母さん頑張るからね。
そう言われ、俺の毎日は少しずつ変化していった。
「普通の高校生活、か……」
普通って、なんだろう?
そんな風に思ってしまった。
俺にとって朝早くに起きて新聞配達に向かい、学校へ行き、本屋でバイトをする。それが俺にとっての高校生活だった。
だから一般的な高校生みたいにこの時間まで布団で寝ていると、変な感じがする。
感覚としては眠たいのに、目を閉じるとなんだかいけないことをしているような……まるで中学生のときに仮病を使って学校をズル休みしたときみたいな、そんな罪悪感を抱く。
「う、ん……おにいちゃん、どしたの?」
眠れなくて何度も寝返りをしていると、横で眠る妹菜が目を閉じたまま俺の腕をギュッと掴む。
「ごめん、起こしちゃったか。なんでもないよ」
頭を撫でると、妹菜は再び眠りにつく。
そんな寝顔を眺めながら、俺は無理矢理に目蓋を閉じて眠りにつこうとした。
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