第14話「勇者があらわれた! 逃げる? 戦う? →追い払う」


 あ~……なんか、どっと疲れた。


 うって変わって場所は会社の食堂。


 ただでさえ辛かったのに、ハゲ部長のお小言やらお局様のクソ嫌味やら、死ぬ気で耐えたけど、もう限界。


 食堂で食事を終え、ぐったりとテーブルにつっぷして倒れこむ私の耳元に――。


「成瀬さん」


 天使の囁きが如き、あのイケメンボイス様が。


 慌てて跳ね起きる私。


「こんにちわ。お疲れかな?」


 ステキ笑顔スマイルを浮かべた石川イケメン様のお姿がそこにあった。


「あ、そ、その。こんにちわ。だ、大丈夫です」


 いきなりの事で心の準備が整わない。

 まともに会話ができそうにないほどに心がドキドキと鼓動を奏でている。


「あ、そ、そうだ! 昨日はありがとうございました! 楽しかったです」


 とりあえず、かろうじて思いついた昨日のお礼を口にする。


「それはよかった。また今度、一緒に遊びに行こうね」


 究極の笑顔とはこのようなものか。

 芸術を眺めるが如く心が晴れやかになるのを感じる。


 あの野蛮な勇者野郎とは大違いである。


 生き返る。



 その後は話も弾み。昼休みの時間が終わる頃にはすっかりと、今日のイライラも吹き飛んでいるのであった。



 その後、しばらくの間は、こんな日々が続いた。

 勇者が何かしでかす、仕事は続かない。

 職場では部長やお局様の嫌味とお小言で精神的ダメージによりライフを削られる。

 石川さんのステキなフォローで心を癒される。


 そんな毎日だった。


 勇者についても、仕方が無いなぁで済ませつつも、いい加減どうしたもんかと思い始めてきた。

 顔に釣られて飼ってはみたものの、ね?

 一度飼うと決めたからには責任持つべきなんだろうけどさ? 問題行動は多いし、イライラさせられるし。

 何よりイライラの元凶が他にもある分、追加ダメージでヘイトも勇者様に向けてしまう日々が続いた。

 こんな事言うとまぁ、浮気みたいな感じに思われるかもしれないけど、そもそも付き合ってるわけでもないしさ?

 会社社長の御曹司こと石川さんとの日々もあって……ね?

 わかるでしょ?



――邪魔に感じてきちゃったんだよね。



 そんな、ある日の事だった。



 その日はいつものように、あいも変わらず何がそこまでさせるのか、嫌がらせレベルでクソ長いお小言をぶちかましてくるハゲ部長と、相変わらずのコンビネーションで私の心を削ってくるお局様の連携攻撃で私のハートが致命傷によりステータスウィンドウがきっと真っ赤に染まり始めていた。そんな時だった。


 窓の外。オフィスビルの入り口付近が何やらうるさい。


 なんだろう?


 覗いてみる。


 すると――。


「奈々子殿~」


 声がした。


 オイオイオイ、嘘だろう!?


 窓を開けて下を見やる。すると――。


「おぉ、奈々子殿!」


 いやがった、勇者様が。


 無視しようにもこちらをニッコリと見つめながら手まで振っていやがるのだ。



――明らかにコスプレにしか見えない、あの白銀の鎧姿で。



「あの馬鹿ァァッッーー!!」


「な、成瀬君……知り合いかね?」


 あのハゲ部長でさえ、いつものな~なこちゃ~んではなく成瀬君呼ばわりするほどにドン引きをしていらっしゃる。


「うあああああ!!」


 私はエレベーターを使う事も忘れ、非常階段を全力で駆け降りながら一階へと向かうのだった。

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