第12話「勇者のグルメ……?」


 そして帰宅。


 いやぁ、素晴らしいディナーだった。

 嫌味に感じられない程度に高級な、隠れ家的な小さなお店のおフランス料理。

 イケメンとのイケナイ一時。

 ダーツバー何かも行っちゃって。大人の時間で羽根を伸ばして気分は極楽。

 お酒なんかも入っちゃって、そのままもうお持ち帰りされても私は一向に構わんッ! って感じの中。


「また、食事にでも行きましょう」


 と初回からは手を出さない、ガッつかない系男子特有の余裕と貫禄を見せつつも次回のお約束もバッチリ。


 これもう、二回目は朝帰りコースもあるんじゃない!?


 そんなスキップしたくなるほどの幸せハイテンションモードで家の扉を開く私。



――その時の私は気付かなかったのだ。



 家にはあの輩、見た目イケメン中身問題児やばんじんのアイツがいやがるのだ、という事に。



「うわっ、なんぞこれ!?」



 私が浮かれ気分で家の扉を開いたその時。

 中から漂う煙臭……。


「おお。お帰りなさいませ奈々子殿」


 中から現れたのは……ウネウネした蛇らしき物の串焼きを手にした勇者様だった。


「奈々子殿も食べますかな? 美味しいですぞ?」

「誰が食べるかー! そんなもーん!!」


 なんでもこの勇者野郎。

 私が遅くなるから適当に何か買って食べてて、と言ったにも関わらず。


 近所に生息する烏やら、近場の森からはなんか蛇やら蜥蜴やら蛙やら?


 それらを捕獲して、家で串焼きにして食べていたのだそうな。


「ってか、家を焼く気!?」


 床に直に薪をくべて料理してやがるし……!


「安心してください。耐熱魔法をかけてあります」


 安心できるか!


「煙、煙は!?」

「風魔法でちゃんと窓から外に出してありますぞ?」


 その時。


「ちょっと成瀬さん? あんたんとこの窓から大量の煙が出てるって苦情きてるけど、大丈夫? 火事じゃない?」


 やって来た大家さんにあわてて平謝りする私。

 事情は当然適当に誤魔化した。

 さんまを焼いていたとかそんな感じで。


「イケメンと焼肉パーティなのかなんかしんないけど、まぁ別にそれはいいんだけどね? やるならお外でやってね。BBQとか。公園あるでしょ?」


 言い訳は通用しなかった。


「これからは気をつけてね」


 大家さんは去っていった。

 優しい大家さんで助かった。


 それはそれとして。



 ……こんの勇者クソやろおおおおお!!



「いやぁ、申し訳ない奈々子殿」


 モグモグと謎の肉を咀嚼しつつ、まったく反省の色というものが見えない面で微笑むイケメンくそ勇者この野郎。


「それより。さぁ、できあがっていますぞ? 一緒に食べましょう」


 それよりじゃねぇよ!


 テーブルに並べられていたのは、丸焼き状態の蛇の串焼きと、蛙、蜥蜴、烏だったものらしいブツ切り状態の串焼きやら足の形がくっきり残された串焼きやら。なんかちっさい蛙そのままの丸焼きみたいなものまであるんですけど……。


 ……見た目がヤバイ。


「うっぷ」


 せっかくのフランス料理様が胃からの逃亡を始める。


「大丈夫ですか? 奈々子殿」


 トイレまで連れて行ってはくれるものの、ほろ酔い状態だったのもあって、アルコールが悪い具合に効いてきたせいで、せっかくのお高級料理様を全部吐き戻してしまう。


 背中を撫でてくれる勇者様。


 その優しさは別の形で欲しかった。


 っていうかね。


 お金を使うのがもったいないと感じたのだろう。


 それはわかる。


 だから森とか近場で狩って来てくれたのね?


 それもわかる。


 機械の使い方わからなかったから、魔法使って木を乾燥させて薪まで作ってがんばったのね。


 それもわかってあげる。


 けどね……。



 こんなもん私に食わそうとするなぁぁぁぁ!!



 勇者野郎は何がいけなかったのだろう、といった顔でもっしゃもっしゃソレを食べていらっしゃる。



 この駄目勇者この野郎……一人でお留守番もできんのかぁぁぁ!!



 まぁね。


 全部さ。善意から来てるんだから怒っちゃダメだよね?


 ってのはわかってるんだけどさ。



 蜥蜴に蛙に蛇に烏って……ゴキブリだのセミだのを善意で狩って持ってきてふんぞり顔でドヤる猫じゃないんだからさ。


 私は文明の利器の使い方を再度みっちり教え込み。


 お金は500円くらいなら一日自由にしていいから、と再度我が家の家庭事情をしっかりと教え伝えて、今後このような事がないように務める。


 そして、もう二度と屋内でBBQなんぞしないようにみっちりと叱り付け、勇者さまと向き合うのだった。

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