第11話「私のシンデレラストーリー」
「いやぁ、災難でしたね」
近くの食堂で食事を取る私の耳に届いたのは、爽やかな
そう、背後に立っていたのは、先ほど助けてくださったイケメン大恩人こと我が社の御曹司、
「あ、先ほどはありがとうございました」
「いえいえ、我が社の大事な人材を守るのも、社長の息子である僕の仕事ですから」
「それでも、ありがとうございました。助かりました」
はは……お仕事ですか、まぁ、そりゃそうですよね。
引く手数多のイケメン御曹司様が私のようなモブOL風情如きにね……。
いや、そりゃあ家に一匹イケメンは飼ってますけどね?
大喰らいでエサ代はかかるわ、常識は無いわ凶暴で人に噛み付くわで役に立たない駄犬だとわかった以上、ね?
他のイケメンに目移りしちゃうのも仕方が無い訳で。
だからまぁ、そんなイケメン様から「助けたのはお仕事だからですよ~」だなんて、あからさまに言われちゃあ、ちょっとだけど傷つく。
――けど。
「もちろん、それ以外の理由もありますよ?」
「……え?」
寂しげな気持ちが少しだけ顔に出てしまっていたのかもしれない。
そのせいだろうか。
「こんな可愛らしいレディを、守りたくなるナイトがいても、おかしくはないでしょう?」
キラリと、白い綺麗な歯を見せながらさわやかに微笑む石川さん。
ドキリと、私の中の好感度が跳ね上がる音がした気がする。
「……彼女もね、本当は寂しい人なんですよ。もちろん、わかってあげろなんて言いませんがね。でも、だからといって人に当たって良い理由にもなりません。ならば、誰かのフォローが必要でしょう」
そういえば、私がこの会社に入って、作業のさの字もわかっていない時期、わざわざ部署変えをしてまで私に仕事のいろはを教えてくれたのは石川さんだった。
もちろん、会社社長の息子として、次代を担うための勉強のため、という理由があったのだろう。
けれど、とても優しく、懇切丁寧に仕事を教えてくれたのを今でも覚えている。
当然、ミスした時のフォローも。優しく叱りながらも、わかりやすく教えてくれたんだ。
「それに、部長とも上手くいってないんでしょう?」
「え?」
彼が総務部にいた頃はあの部長も猫をかぶっていたのか、悪質な粘着ぶりを見せないようにしていたのに。
どうしてそれを……?
よほど私が不思議そうな顔をしていたのだろう。
彼は私が何を口にするまでも無く、こう答えてくれた。
「前にもちょっと、色々あったんでね。あの人、家で何かあったり、他で何か嫌な事があるとすぐに人に当たる悪癖があるんですよ」
確かに、思い当たる節はある。
あの茶が温い事件の時も、途中から電話先に平謝りしているようだったし……。
「だから、簡単にやめて欲しくない。がんばって欲しい。というのが理由の一つ」
理由の……一つ?
それじゃあ……。
「もう一つの理由は……?」
彼は微笑みながら少しだけ、グッと距離を近づけて、隣の席に座る。
「それを口にしてしまうのは、無粋だとは思わないかい?」
石川さんはそのままさらに、耳元で囁くほどの距離で魅惑的な言葉を口にするのだった。
「今日、仕事終わった後……暇かな?」
突然の言葉に、胸が高鳴る。
「……え?」
「思いっきり羽根を伸ばすのにうってつけなお店を知ってるんだけど……どうかな?」
「え、えっと……それは」
――なんだこれ?
なんだこの状況は!?
見つめてくる熱い眼差し。
イケメンの、ややゴツめだけどスラっとした美しい手が、そっと私の手の上にかぶさった。
あ、あれ?
こ、これ……もしかして口説かれてる!?
「え、えぇと……」
一瞬、勇者様の事が脳裏に浮かび上がるも……。
モテ期に足踏みする愚があるだろうか、という冷徹な計算を一瞬の内に演算し、解答を出す私の頭脳。
「よ、よろこんで!」
浮つきすぎて何て答えれば良いか思い浮かばず、思わずハイヨロコンデーみたいな返答をしてしまった。
顔が熱い。
嘘でしょこの展開……!
「じゃあ、仕事上がりに、また」
こうして、私はシンデレラ気分で仕事を終わらせ、ステキなイケメンとディナーを楽しむのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます