第7話「働け!」


――やっべ、お金が無ぇ。


 夢のイケメン同居生活。あれから二週間がたった。


 勇者様との生活は、そりゃあもう楽しかった。


 どれくらい楽しかったかというと、乙女ホルモンドバドバ垂れ流し状態だったのかもしれないレベル。


 いつもは歯牙にもかけてこないはずのフツメン社員の糞モブ共がうっとおしいくらい食事に誘ってくる程だった。


 もちろん断ったけどね。家に帰ればもっとイイ男が待っているんだからさ~。


 肌も気持ちツヤツヤしているしっ。



――新発見! イケメンは美容にイイ!



 そんなこんなで満ち足りた日々を送っていたわけなんだけど……。



――なんたる誤算!



 この勇者、ひたすら食う。


 もうとにかく食う。



「お前はサ○ヤ人か!」ってなくらいにものっそい喰う。



 おかげで我が家の家計は火の車。


 まさに痛恨の一撃。


 勇者だから本来は改心の一撃なんだろうけど、これじゃあ改心のしようもない訳で。


 むしろあんたが改心してくれと言いたかった。


 つーわけで……拾ったは良いけどこのペット、餌代がやたら高くつく。


 こんなこと犬猫相手にゃあ言えないが、人間様相手ならもう言ってもいいだろう。


 だから言ってやったのだ。



「働け!」



 ってね。



 そんなこんなで勇者さまのお仕事が決定した。


 言語はがんばって学習したようで、一部カタコトレベルながらも、もう普通に喋れている。地頭はやたら良いようだ。


 戸籍とか身分証明書については魔法による偽造でなんとかした。後、面倒な事は認識阻害の術で誤魔化したりね。


 尚、当作品は違法行為を助長したり推奨したりするものではありません。



 ちなみにこの世界でも魔法は多少使えるらしい。


 そういえば最初に会った時、回復魔法使ってたもんね。


 ただ、消耗が激しいのだそうな。


 この世界は空気中に存在するマナが極端に少なく、ありはするけど極僅か。


 その分、日々体内生成されているらしい内蔵マナを自動消耗してしまうようで、やたらと体力を使うのだそうな。


 さて、それはともかく。


 とりあえず決まったお仕事は、近所にある深夜のコンビニバイト。


 最近じゃぁ外国人労働者も沢山入ってるみたいだし、時給もいい上に、面接も比較的楽だからね。


 履歴書は……どうせ調べやしないだろうと私のを一部丸写ししたりして誤魔化した。



――こうして彼が初仕事に出かけたその日の事だった。



 私が、今日も今日とてユ○ケル片手に、本来の仕事外であるはずの、無駄に特別に任されている雑務、暗黒剣が如き苦痛と共に繰り出される我が無限お茶くみ地獄の術。通称『アンリミテッドお茶くみサービス』で無意味な経験値と無駄な労働時間の浪費とわずかなお金を稼いだ後に帰宅した頃――“その事件”は起きるのだった。



 勇者様は夜のお勤め中。


 もちろんイケナイ意味ではないゾ?


 そういうお仕事をさせるのも向いてはいるんだろうけど私が許しません。


 けっこう嫉妬深いのです私。



 さぁ、久々に一人で過ごす自由時間だ!


 私は溜まりに溜まりきっていたフラストレーションその他諸々を発散させるべく、数週間ぶりの単独自家発電セルフプレジャーを行わんと欲し、ベッドの裏の秘密こけし様を取り出さんと手を伸ばした……。



――まさにその瞬間ときだった!



ガチャガチャと、玄関の方からなにやら音がするではないか。



 続けて鍵が開く音が聞こえる!?


 合鍵は勇者様にしか渡してないはず……。


 でも、その勇者様は今、外で初めてのお勤め中……!


 まさか泥棒?



――私がいる――金銭強奪――ついでに溜まりに溜まった性欲を発散するために私の体を狙って……!?



 ひィィ!! 無理やりはお断りィ!



 確かにたまにはそういうシチュでケアする事もあるけどリアルレイ●はお断りィィ!?


 せめて触手で――。


 などと、悲観的な思考の闇に沈んでいく私の脳裏をよそに、無情にも扉が開く音が響き渡り……!



「誰!?」



 思わず叫んで振り返った先にいやがったのは……。



 ――今はここにいないはずのお方だった。




この勇者クソ野郎ッ……初日で辞めさせられやがっただとォォッ……!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る