第一章「楽しい同居生活?」
第5話「コーヒー美味し」
という訳で、場所はうって変わって私の家。
こんな天然コスプレイヤー、深夜の街に放置しておくわけにはいかないからね
質素でつつましやかな三畳一間の安アパートですよ。
昭和の歌かっ!? ってね。
いやいや、実際家賃とかきついんだってば。
シャワールーム・トイレ別で温水洗浄トイレ付き。
ワンルームだけどロフト付きなので荷物もそれなりに何とかなる。
意外と良い物件だったんですよ? 一人暮らしならね。
で、そんな無慈悲な都会事情のせいで、狭い~所にオトシゴロ男女が寿司詰めギュっ♪
――ウホッ、萌える☆ これなんてエロゲ……?
ちなみに、ちゃんと私は一旦お風呂タイムをもらって私服に着替えさせて頂いております。
……粗相しちゃったからね。
そんな訳で私は芋ジャージなうな姿で勇者様と御対面している訳であります。
いやまぁ、そんなことはひとまずおいといて。
そうそう、お洋服も貸してあげちゃいました。
元の鎧とか派手な剣はロフトの奥に収納中。しまっちゃおうね~。
……警察来たらどうしようね?
ちなみにこの貸した服、一見普通の服に見えそうな、ちょっと派手なスーツ系の奴なんだけど。
……実は買ったはいいけどサイズの合わなかったコスプレ用の奴なんだよね。
それでもシャツが小さかったのかアラいやん♪ ボタンをはずしてお胸板様と割れた腹筋様がこんにちわ☆
うほほ♪ 眼の保養☆
しっかしイイ男ってなにを着せても似合うのネ。思わずよだれジュビッ。
ちなみに私は、はたから見るとウホッなイイ男を体よく家に連れ込んだ形に見えるみたいで、扉の前で大家さんが微笑ましげな表情で親指を立ててくださった姿を今でもよく覚えている。
意外と服装なんて気にせんのね。
コスプレかパーティ帰りとでも思ったのかな?
しっかし……いやぁいい拾い物をした。神様、ありがと~。
なんという事でしょう。
イケメン一人入れただけで見飽きた部屋が驚きのビフォア・アフター。
まず、イイ男がいると部屋の空気が違います。
淹れたコーヒーもおいしゅうございます。
私はこだわりのコーヒーカップに注いだ安物のインスタントコーヒーをすすりながら、テーブルに肘をついた姿勢でウットリと素敵なイケメン様を観賞していた。
う~ん、ご飯三杯いけるね、こりゃ。
しばらくそんな風に過ごしてると、沈黙に耐えかねたのか、イケメソ様が何か聞きたげなで表情で話しかけてきた。
『あ、あの……』
ちなみに面倒くさいんで向こうの言葉は省略させて頂きます。
日本語しゃべれてないです。多分言語翻訳の魔法か何かでも使っているんでしょう。
口では意味不明なこと言ってるはずなのに、なぜか意味は通じる感じ、継続中。
さて、そういやまだお名前聞いてなかったっけ。
「私は成瀬奈々子です。貴方はどこの勇者様?」
冗談半分で質問してみる。
まぁ正直聞きたいこともツッコミたい部分も山ほどあったんだけどね。
あまりの超展開にそれはスルーしたよ。
きっと私の物語担当の
で、そんな私の適当な問いかけに――。
『な! なぜそれを!?』
狼狽しながら真面目に受け取る勇者様。
『確かに、私はかつて『
やはりというか、まさかの解答。なんか大真面目に答えてきやがった。
『ま、まさか、貴方はこの国の大賢者様であらせられますか!?』
しかも大賢者様ときやがった。
『……あ、っと失礼。私、アルトレギアス・リーゼンクロイルと申します』
「どうもよろしくお願いします」
『あ、こちらこそよろしくお願いします』
一旦は落ち着いた様子でコーヒーを口にする。
が、あまりお口に合わなかったのかしかめっ面をなされおった。
『……しかし、ここは一体どこなのですか? こんな……恐らく夜だと思われるのに、どこもかしこも明るい。なのに夜の闇は恐ろしく深く暗い……。月も一つしか無いようですし、そもそも明かりにも木々にも建物にも、マナの力がろくに感じられない……。ここはまさか、神々の聖域? それとも魔界の深奥!? あぁ、我が故郷“
困惑して驚愕するお顔も中々に可愛いものですな。くはは。
ちなみにやっぱり音と意味がまるでチグハグな二重音声じみた状態で脳裏に意味だけが直訳されて入ってくる不思議な感覚となっております。
音だけだと「ノゥクスタルテス・リッターリア」とか口にしてる感じ。
それで『常闇の都』なんだってさ。
いや~すごいね、魔法。
「え~と、申し訳ございませんが、存じあげません……」
『そうですか……』
私の答えに勇者様は暗い表情。
うつむいてションボリしてる。
ぶっちゃけ、不謹慎なのかもしれんが、萌える。
かわいいっ。
その表情もまたグッド!
思わず頭を撫で撫でしてあげたくなるっ。
犬のように撫でまわしたいっ!
「たぶんですけど、ここは今まで貴方がいた“世界”とは違うんだと思いますよ」
ズビビっとインスタントコーヒーなぞすすりつつ、私は適当に答えてみた。
だって魔物とか魔法とかいうのが普通に出てきてるしさ。
いたずらにしては凝りすぎてるし、私も日ごろからそういう知識は無駄にたくわえてきているしねぇ。
我が得意分野たる
いやはや、私に拾われてよかったね。
一般人だったらもっと話こじれてるよ、きっと。
『……やはり、そうでしたか』
なんか思い当たるふしがあったらしい。
『今思えば、あれはきっと“禁じられし時空魔法”だったのかもしれませんね……』
時空魔法とな。
『あの男は死ぬ間際。何やら魔法を放った後に……『異次元を永久に彷徨うがいい』とか、そんな事を呟いていましたから……』
あら~。
アナザーディメンションくらっちゃったんですね、わかります。
いやぁ、よかったね~。異次元の狭間とかを延々彷徨わなくてすんで。
『この街にそういった、魔法に詳しい魔導師様などはいらっしゃいませんでしょうかっ!?』
いや、無理無理無理無理かたつむり。
私のような一般モブにそんなん期待されましても……。
『お願いします! どうか私めをお導きくださいっ!! 大賢者様!!』
――ブホハッ!
私は盛大にコーヒーを噴き出しながらむせた。
ちょっ、おまっ! 私が!?
まさかのガチ大賢者様認定確定!?
あと、いないいない。いないから、この世界に魔導士とかいないから。
勇者様は笑い転げる私をきょとんと眺めている。
ほんとかわいい、もう食べちゃいたい。
『い、いかがなさいましたか』
しかも超敬語だし、私風情に。ありえんて。
「いや、あのですね? 多分、てか絶対いないと思います。というよりその、なんと言ったらいいか。ん~……」
私はどう言ったらいいものかひたすら悩んだ挙句、きっぱりすっぱりと答えて差し上げる事にした。
残酷な現実というか真実を。
「えっとですね、魔法を使える人自体がこの世界にはいないかと……」
『……え?』
「つまり、この世界には存在いないんですよ。魔法が」
『……は?』
「少なくとも魔法の文化自体が存在しませんので。この世界」
『そんな……』
「だからまぁ、こう言っちゃあ何なんですけど……貴方は恐らく。もう二度と元の世界には戻れないです。可愛そうですけど」
私の口から告げられた残酷にして無慈悲かつ理不尽な真実。
その言葉を聞いて数秒、勇者様は石像の如く硬直したかと思うと、やがてがくりと両膝に手を付き、ど~~~んという文字が背後に見えるほどの、この世の終りを目の当たりにした上で、さらにマシンガンレベルの連続豆鉄砲を追い打ちで食らった瞬間の鳩のような間抜け面をして「ま・じ・か・よ!?」って吹き出しに書いてあるくらいの凄まじい落ち込みようと驚愕の表情を交互に見せてくれた。
「まぁ、一応、可能性レベルでは、まったく方法が無い訳では無いかもしれませんけどね」
余りにも可哀そうだったので慰め程度に希望を与えてあげる事にした。
『そ、それは一体どのような!?』
「こっちの世界に魔法が無い訳ですから、向こうの知り合いの大魔法使い様が貴方の現状を考察して、助けに来るとか」
『……それだけ?』
「それくらいしか無いかと。たぶん」
『……な、なるほど』
「それまでは、こっちでがんばって暮らすしか無いんじゃないですかね」
『……確かに。この世界にはどうやらマナそのものが少ないようですし……なにより、貴方が嘘を言っているとはとても思えない……』
「まぁ、現状から推察して、思った事をそのまま言ってるだけですからねぇ」
ズビビ。コーヒー美味し。
『……なんてこったぁ!?』
大仰け反りで頭を抱える仕草をなさる勇者様。
――うける。
不謹慎だけど笑いをこらえるしかない。
リアクション大きすぎるよこの子。芸人かっつーの。
萌えるわぁ。うちの子になっちゃいなよ。
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