第2話「目の前に奴はいた(後編)」
――ってな訳で。
受け入れられるかーーッ! こんな現実ッ!!
別に一昔前の骨董品アニメや昨今のなろうテンプレみたいに「異世界に飛ばされた~」だとか「朱雀が舞い上がってミラクルなラー」だとか「オンシュラそわかー」だとか、そんな訳じゃあ断じてないんだよ!?
さすがにそんな漫画じみた妄想は高校三年辺りで遅めの卒業を果たしていたはずな訳で……。
うん、だからね?
こんなことが現実に起きようはずもない訳でね?
もっと恐ろしいものの片鱗を味わっている訳でね……?
だってここは現実なのだよ!?
明らかに
ほっぺたむにーって引っ張っても痛いし。
夢じゃないよぉ助けて
「泣いてもいいですか……?」
私はただ近所の公園へと、この寒い真冬の夜に、いつものように一人黄昏て、毎夜遅い帰宅前の、今日がんばった自分へのささやかなご褒美にしようと、あたたか~い缶入りのお汁粉でも飲もうと立ち寄っただけな訳で……。
……そのはずだったわけで。
あまりに非現実的な目の前の脅威に、絶賛一般成人女性失禁シリーズ中(脱糞までいかなくてよかった)という悲しみを背負いつつも、現実逃避さえできない私な訳で。
――おちつけ。おちつけ私。まずは現実を直視しろ。
えーと。目の前の怪物は? 公園の特大ゾウさん滑り台ほどの大きさか。
……すごく……大きいです……。
それに対峙する勇者様は当然の如く普通の成人男性サイズ。
にもかかわらず、一進一退の攻防。
というか触手攻撃は全て避けられ、勇者様らしき
凄いね人体。
むしろ優勢――。
『ンゴゴギギグゲクケケパキョェェェーー!!』
恐るべき威嚇の咆哮を放つ怪物。
触手のほとんどを切り裂かれ、本体へのダメージを受けたことで怪物が激怒しているようだ。
そっかぁ……これが殺気って奴なのかぁ……。
――SANチェック案件です。
恐怖に全身が弛緩する。
無力な私は呆然と、眼前の“もはや暴力としかいえない程の絶望的恐怖に”身をゆだねる事しかできない訳で。
あかんなこれ。大きい方も生まれたかも……。
あまりの恐怖に、失禁から追加オーダー家康化なうな私をよそ目に、
「え? これが現実? うっそだ~。夢でしょ」
現実逃避をいくらしようと夢から覚めてくれません。涙まで出てきました。下半身が温いです。臭いです。ひろしです。
あぁ、昨日帰りに飲んだコーヒーの味が懐かしい……。
呆然としつつもグビグビお汁粉をすする。
甘~い。
もうヤケだ。
「あ~お汁粉おいしい。温まるわ~♪」
残像どころか、今度はドラゴンなボールのレベルで早すぎてマジで見えねぇ超高速ドッカンなバトルを繰り広げはじめる両者。
そうアレ、空中でドーン、ドーン、シュピッ! ギャッギャッ! ボーン!! ってアレ。
なんぞこれぇ……?
CGかよぉ!? 特撮かよぉ!?
オイオイオイ、死ぬわ私。
ってかさぁ、読者置いてけぼりもいいとこだろこれ!!
もしもさぁ? これが漫画だとかラノベだとかヴィジュアルノベルだとか、ましてやカ□ヨムやな○うみたいな同人小説作品だとかそんな物語だったらさぁ? 物理的にある媒体なら速攻投げ捨てるし、ウェブ媒体とかなら画面を消すなりブラウザバックするし、アプリとかデータ系だったらデリートまっしぐらで猫まっしぐらもいい所だよ!? 作者ごと
むしろ目の前に作者がいたその日にゃ、全力ダッシュで駆け寄ってガンジーだって飛び膝蹴りぶちかましてる所だよ!? 脳内で!
目の前にあるのはいつもと変わらぬ愛しの公園……だったはずの場所。そう、現実。
夜の静けさと共に、仕事帰りの私の心を優しく温めてくれた癒しのスポット。そう、現実。
それが……。
そのはずが……。
なんっじゃこりゃあああああ!!
散乱し、弾け飛ぶ無数の残骸達。
なんという事をしてくれやがったのでしょう。
あの癒しの公園がなんとも無残で荒廃したマッドでマックスな世紀末的光景に。
そして立ち上る砂煙。
跡形さえ無くなった懐かしのゾウさん滑り台の跡地から現れやがったのは、眩い白銀の鎧に身を包んだ金髪の
本当、何なのアレ?
彼はその手に持った……“
そして……
跳躍する
再び繰り広げられるドッカン宇宙な大バトル。
なんてことを考えている間にも、件の銀ピカ鎧騎士様は黒いのと絶賛戦っていたりしてるわけで。
――あ、またふっ飛んだ。
時間になおすと一瞬にも満たない時の中、これだけの思考を展開させている私って実はすごくない?
てか、あれ?
――もしかして、これって走馬灯?
うぉ、飛ばされた……。
痛そう。死んだか?
うお、全然元気。ってか一瞬光って血が引いた? アレって回復魔法?
魔法ってホンマにあるんやなぁ……。
ってか、人間ってこういう時、思考が加速するって本当だったんだなぁ。
お~、斬った斬った。一刀両断だよ、すげ~。
見事溶けて消える謎の怪物!
完・全・大勝利~!
――って何この超展開。読者おいてけぼりすぎだろ。
私の事もおいてけぼりすぎだろぉっ!
そして突如、グラリと揺れる世界。
世界が暗転しはじめる。
やっと意識が現実からの遮断を命じてくれたらしい。遅いぞ? 私の馬鹿体☆
だがまだ思考は加速したままのようで、ゆっくりと斜めに世界が傾いていく。
加速した思考の中、私は無駄に考える。
私、一体何を間違ってしまったんですかねぇ。こんな深夜に公園なんかにいくのが警戒心足らなかったのかなぁ?
いやいや、案外うちの街平和だからついうっかりね、っててへぺろ☆
あ、何か勇者様が意識を失いかけている私の事に気付いたっぽい。近寄って来る。
倒れゆく私の体。月が綺麗です。
……別に愛の告白的な意味合いではなく。
なのにまだ視界は完全には閉ざされていない。さっさと眠りたい。はやく失神しろ私の体ゲラウェイ!
――私は静かな時の中で考えた。
色々と思い出される今日の出来事。嫌味な上司とのエンカウントとか強制イベントらしき嫌味に愚痴のオンパレードな糞出来事など、その他諸々エトセトラ。思い出したくない事ばかりが思い出される。今日も最低な一日だったなぁ。
――イラつく。
目の前にドス黒い触手の欠片みたいのが見える。
ウネウネ近寄って来る。
来んなし。
あっち行け。
体は動かない。
うわ、なんかワラスボみたいな口があるし。眼が沢山ついてる。キモイ。
――さて、「こんなわけのわからない始まり方じゃあいまいちぴーんときやしねぇ」なんて考えているそこの貴方。正解、てか私もわからん!
てな訳で、ちょっとだけ時間を戻して説明していきやしょうか。
――私にも少し考える時間をいただきたい。
というか、無理。
だってほら……地面がどんどん起き上がって来てるもん。
これもうアレだよ。グラップラーなアレでノックアウトされたヤツ視点の一人語りだもん。
化け物がいなくなったから安心して……とかよくあるそういうアレなのかね。
自分がそうなるとは思わなかったよ。
――バタリ、という音がした気がする。世界は完全に真横に傾いていた。
そして――。
ほ~ら、暗くなった~。
はい、おやすみ~。
と言う訳で、サーッとね、意識がやっと完全に薄れていくのを感じる。
――勇者様が魔法でもかけてくれたのかな?
ほんわかな暖かさとわずかな光のようなものを感じながら、私の意識はフェードアウトするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます