選択②『一括でポイントを集める』(2/2)
オサムが死んだ。病死だった。
もともと体が弱く、長くは生きられなかったらしい。俺が気をつけていれば、じきに故郷へ帰れたのに。
オサムが稼いだ給料は「仕事を途中で放棄した罰」として、全て班長に奪われてしまった。俺は力づくで取り返そうとしたが、逆に捕まってしまった。
「離せよ! それはオサムの家族に渡すもんだろ!」
「くッ、反抗的なやつめ! 領主様に裁いていただかなくては!」
班長は地下にある領主の家へ、俺を連れて行った。
領主とは、俺とオサムが掘っていた洞窟を管理している人間だ。特別階級で、洞窟を掘るための資金や道具も提供している。いわばスポンサーだ。
俺もオサムも会ったことはないが、ウワサではものすごい変わり者らしい。人体実験が趣味で、連れて行かれた罪人は二度と戻って来ないとか。
(……終わったな、俺の人生。転生ポイント、どれくらい貯まったんだろ? 班長に逆らったから、減点されてるんだろうなぁ……ハハハ)
地下へ続く、長いらせん階段を下りると、頑丈そうな鉄の扉が現れた。見るからに重そうだ。
班長はドアを軽くノックし、声をかけた。
「領主様、罪人のヒデを連れて参りました。我が領の資金を盗もうとした、不届き者です。どうか、裁きを」
「盗んだのはお前だろ! 俺はオサムの給料を、アイツの家族に渡してやりたかっただけだ!」
「えぇい、やかましい! そのような嘘が通じるとでも思っているのか!」
その時、中からドアをバンッと叩かれた。
「班長、キサマの方がやかましい。罪人を置いて、とっとと持ち場へ戻れ」
「は……ははッ!」
班長はあっけに取られながらも、俺を睨みつけ、来た道を戻る。
「入れ」
「は、はい!」
ドアは見た目ほど重くはなかった。
中は広々とした空間だったが、びっくりするほど暖かかった。部屋を占拠している、いくつもの巨大な機械が暖めているらしい。
「来い」
機械の隙間から、少女が手招きしている。
外から聞こえた声と同じだ。信じられないが、あの子が領主なのだろう。
床のあちこちに転がっているネジや工具を踏まないよう、注意しながら彼女のもとへ急ぐ。少女はジッと俺の目を見つめると、工具のひとつを寄越してきた。
「手伝え。簡単な作業だ、お前にもできる」
「はぁ。これが罰ですか?」
「まさか。君は罪人じゃないんだろう? 目を見れば分かる。
少女はマキナと名乗った。数年前、天才的な頭脳から特別階級に選ばれ、ここの領主になったらしい。今は特別階級専用の、より効率よく洞窟を暖められる暖房器具を開発中らしい。
マキナは班長が連れてくる罪人を、密かに逃していた。作業を手伝わせる代わりに、給料分の金を持たせて故郷へ帰していたのだ。
「どうして班長を解雇しないんです? 一番の罪人はあの人じゃないですか」
「あいつはうちの洞窟で一番体力があるんだよ。力に頼らずとも採掘できる技術でもあれば、いつでも解雇してやるんだが」
「……それなら、いい方法がありますよ」
俺は前から考えていた案をマキナに打ち明けた。
「実は洞窟を掘っていると時々、やたら硬くてピカピカ光る石が出てくることがあったんです。不要な石は砕いて砂にするのですが、その石は班長でも壊せなかったので、そのまま外へ埋めたんですよ」
「それがどうかしたのか?」
俺は前世のある場所で見た輝きを思い浮かべ、言った。
「俺は鉱物に詳しいわけではないのですが、おそらくあれは……ダイヤモンドだったのではないでしょうか?」
領主マキナとの出会いをきっかけに、俺の人生は劇的に変わった。
調べたところ、やはりあの硬い石はダイヤモンドに似た鉱物だった。俺がいた世界のダイヤモンドよりも丈夫で、採掘道具の素材にぴったりだった。
だが、俺がマキナにダイヤモンドを使って作るよう提案したのは新しいツルハシではなく、電動のドリルだった。暖房器具用のエンジンを使い、自動で採掘できる優れ物だ。
この世界の産業技術はかなり遅れていて、暖房器具以外の機械が存在していなかった。洞窟を掘るのも、服を作るのも、全て手作業だった。
「すごい、すごい! こんなすごいもの、どうして自分で作ろうとしなかったんだ?!」
試作品の電動ドリルは硬い岩盤にやすやすと穴を開けていく。マキナは子供のように目を輝かせ、それを見ていた。
「そうしたいのは山々だったんですが、俺には作る技術がなかったもので……」
「こうしちゃいられない! 暖房器具の開発は、一時中断! 電動ドリルの量産に取りかかる! ヒデ、お前も手伝え! ボクはこういうメカメカしい機械を作りたかったんだ!」
「マジっすか」
電動ドリルが量産されたことで、力がなくても効率よく採掘できるようになった。
力自慢の班長は廃材運びに格下げ。電動ドリルを提案した、言い出しっぺの俺が新しく班長を任された。
「他にも何か思いついたら、言え。ボクが作ってやる」
「じゃあ……」
さらに俺は、温かい服を着られない人達のため、服をレンタルするシステムを提案した。機械で服を量産し、それを貸すのだ。
いらない服があれば、回収して貸す。服は超高級品だが、特別階級の人間の中には一回着た服は捨ててしまう者もいた。
値段は暖かい服であればあるほど、高く設定した。ただし、洞窟や外で作業する者にはタダ同然で貸し出した。
「いいのか? あんな安く貸して」
「いいんですよ。そのうち別の服が欲しくなりますから」
「?」
防寒着のおかげで作業はさらに進み、地下空間はどんどん広がっていった。
やがて、特別階級以外の人達も地下で暮らせるようになった。一人一つの地下空間があてがわれている特別階級とは違い、一つの地下空間に大勢が住まわされた。
特別階級の人達は「可哀想に」と笑っていたが、可哀想なのは彼らのほうだった。特別階級以外の人達は大勢で住んでいるおかげで、地下空間が温められ、室内では防寒着も暖房器具も使っていなかった。そのことに気づいた一部の特別階級の人間はわざわざ階級を落とし、移住してきた。
服に使う家畜や植物も増え、服の需要は防寒重視から外見重視に変わりつつあった。
そこで、俺は今まで価値を無視されてきた宝石や染色剤を使い、服のバリエーションを増やすよう指示した。予想通り、色やデザインの違う服は大人気になり、在庫切れが相次いだ。「他人に服を貸したって、1ドルーコの得にもならない」時代は終わったのだ。
「この国もずいぶん豊かになったな」
マキナは活気にあふれる地下世界を見下ろし、しみじみと言った。
彼女は今回の成果を認められ、全ての領主を統括する領主長に選ばれた。マキナに助言を続けた俺も昇進し、領主補佐を任されている。
俺は「まだまだですよ」と天井を見上げた。
「地下空間はしょせん、仮の住まいです。穴を開けすぎたら崩落する危険だってある。いずれは、地上でも人が安心して住めるようにしなくてはなりません」
「ふーん。我がアドバイザー殿は頼もしいねぇ」
……そうだ。課題はまだまだ残っている。俺だけ休むわけにはいかない。
何か大事なこと忘れているような気もするが、今は忘れたままでいよう。この世界が、俺の知る平凡でありきたりな世界になるまで……俺は、生き続ける。
END②「俺の戦いは、これからだ!」
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