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そっと彫刻を右手に持ち替え、台座をそろりと押す。

物々しい音を立てて赤黒い鉄板が現れた。光はこの鉄板の中を指しているように見える。


出っ張りを爪に引っ掛け力を込めて鉄板をずらしていく。

ずるり、ずるり。

一瞬置いた後同じ色の光が中からぶわ、と溢れ出した。


ばたばたばた、がちゃん!

騒がしい足跡の後に荒々しくドアが開けられた。

「おい、お前まさか…!」

奥様の泣き叫ぶ声と旦那様の罵声。

「あ、あの…僕は…」

「カスケット帽に血を流すあの子!ああ、恐ろしい…!あれはあの子の骨だもの、大理石なんて美しいものではない、怨念が積もっているに違いないわ!」

「ここまでしてやった恩を忘れて彼奴を呼び寄せるとは!それを寄越せ、今すぐに!」

物凄い形相で旦那様は僕から彫刻を奪い取ろうとする。

しかし鈍い音がして彼は跳ね返された。紅い光によって阻まれ僕の近くに寄れないのだろうか。


「ああやって芸術品全てを処分して、もうこの街を捨てて過去を捨てて静かにこの子と3人で暮らそうと思っていたのに!神はそれをお許しにならないの…?」

「どうしてよりによってこの時期にこの部屋からこんな物が見つかるのか!」

最早この部屋は阿鼻叫喚と化していた。悲鳴と怒号が銃弾のように飛び交う。


ふと我に返った奥様は思い直したかのように僕に語りかける。

「ほらいい子ね、それを捨てて、そんな汚い帽子なんてお外しなさい。私の可愛い息子…」

そう言いながらさぁ、と手を僕に伸ばした。


僕は1歩また1歩と後ずさりをする。


僕の母はそんな醜い顔をして笑わない。

いつも気高く美しく、他を寄せつけない圧倒的な冷徹さで微笑むのだ。


「…貴方たちは私の父母じゃない。僕の母はかの人ただ1人だ」


刹那、彫刻は溶けて消え、僕の目の前には女性が立っていた。

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