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翌日、昼間1番に意気揚々と美術商が屋敷にやってきた。それもそうだろう、この屋敷には貴重であろう芸術品が山ほどごろごろしている。彼らにとっては宝の山と言っても過言ではない。


屋敷に散見される作品の数々の数だけ、彼は感嘆の声や唸り声を上げ、ひっきりなしに屋敷の中を歩き回った。彼が言うにはこの屋敷にある作品全てが見たいのだという。

そんな彼が最後に僕の部屋へ辿り着く頃には、外は青黒く染まりかけていた。


「おお、これはこれは…。まさかこれ程のものにお目にかかれるとは!」

彼が目をつけたのは、僕のお気に入りの件の大理石で出来た彫刻であった。彼は白の手袋越しにそれを持ち、眼鏡を外してまじまじと眺めた。


「ほらご覧下さい、文字まで掘られている。これは大分昔のものですかな、棺桶でしょうか。とても精巧に作られております」

奥様も旦那様も僕の部屋にこんな彫刻があると気がついていなかったようだが、作品に刻まれている文字を見た瞬間大きな声を上げた。

「おやめなさい!それは触ってはなりません。名前を口に出すのも恐ろしい…怒りに触れてしまいますわ!」

「そうとも、これは特別な彫刻なのだ、そこらの大理石とは訳が違う。他の作品は幾らでもお売りしよう。だがこれはもう忘れてくれまいか」


彼らの剣幕はそれは激しいもので、今まで見た事のないほど取り乱しており、美術商も彼らの反応に戸惑いながらも彫刻を静置させ部屋を後にした。


奥様と旦那様はその夜僕に、あの彫刻には決して触れないことを約束させ、存在を忘れなさいと言いつけた。

僕はいつかのように首を1回振ったが、あの彫刻を忘れることなど出来ずにいた。

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