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大理石というのはこの国では栄華の象徴である。

先人時代より出土することは滅多になく、富と権利と名声あるものだけが手に入れることを許されたのである。


しかしよくよく考えるとこの屋敷の床は一面の乳白色。その全てが大理石で出来ていた。

街中の豪邸でさえ装飾として使われる程度の物が、床一面に敷き詰められている。それに骨董品の中には大理石で出来ているものも少なくない。その異様さは僕のような人間でも分かることだった。


歩く度にコツコツと音が響き、反響してやがて消えていく。ひやりとした石の感触にぶるりと背筋が震えた。足元の石たちは何処までも純白な目で僕を見つめた。


この屋敷に来て1月が経った頃、奥様と旦那様から明日は来客がある事を知らされた。何せこの不況の中彼らは芸術品に興味はさほどなく、売れるものは今のうちに売ろうと美術商を招いたそうだ。

僕は毎日の楽しみであった芸術品が売られてしまうことに些かがっかりしたが。


そうなるときっと全てと言わずともあの素晴らしい作品たちは減ってしまうだろう。僕は今日のうちに彼らを目に焼きつける事にして、今日の徘徊を始めた。

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