第3話 ずっと言いたかったこと
眠りから覚めて、一番に目に入ったのは明るい天井。ここは……たぶん、王宮のどこか。ああ、よく寝た。今何時だろう。
すると隣でドタン、という大きな音がした。その音に驚いて、私は寝た体勢のまま首を動かした。
「……ディアナ!」
そこには目を丸くして私を見ている殿下がいた。床には分厚い本が散乱している。さっきの大きな音は、これを落とした音だったのかな。
ああ、よかった。私、戻ってこられたんだ。殿下は相変わらず、お化けでも見ているような顔をしてる。
「おはようございます。今、何時……ぐえっ」
時間を聞こうと身体を起こした途端、勢いよく抱きしめられた。
うわわわわ、何々? 心臓止まるかと思った……。
私は宙に浮いたままの両手を殿下の背に回すか回すまいか迷って、結局そっと手を添えてみた。
「……もう目覚めないのかと思った」
消えてしまいそうな声でそう言われ、胸の奥がぎゅっと切なくなった。
殿下、少し痩せたような気がする。もしかしてすごく長い間待たせてしまったのかもしれない……。
「殿下の夢を見ていました」
「私の夢?」
「はい。夢の中の殿下は……なんだかすごく辛そうで」
私がそう言うと、殿下は困ったような顔をしながら静かに笑った。
「……はは、夢の中まで私はそんな有様だったか」
ああ、殿下が笑ってる。
……よかった。
そう思うと勝手に口が動いていた。
「私はそんな殿下を抱きしめてあげたかったんです。でも、夢だからできなかった」
何言ってるんだろう、私。
あの夢を見て、確かにそうしたかった。だけど今の殿下にそんなこと言わなくたっていいはずなのに。
殿下は私の話を頷きながら聞いてくれた。それは夢の中で見た虚ろな姿とは違い、私を真っ直ぐに見つめていた。
不思議。今まで押さえ込んでいた感情が溢れてくる。
私は殿下の頬に手を伸ばしていた。
夢の中では霧になって消えてしまったけれど、今度はちゃんと触れられた。それだけでも嬉しくて嬉しくて。
私が突然そんなことをしてしまったものだから、殿下は驚いて固まってしまった。
夢の中のもう一人の私は、結末を変えてくれてありがとうと言ったけれど……結末を変えたのは私だけじゃない。
一時はポプラレスに入って悪役になろうと決心した。だけどそんな私を、殿下が迎えに来てくれた。一人じゃないと教えてくれた。……だから今の私がここにいる。
こんなに誰かを好きになるなんて思わなかった。私はもう随分と前から、貴方にずっと言いたかったことがあった。
私は、貴方のことを……。
「殿下」
「なんだ?」
「愛してます」
「……え?」
突然の告白に、殿下は面食らったような顔をした。一方、私の方はなんだかスッキリした気持ちになってしまった。
殿下は顔を伏せて大きく息を吸った。
「……ずるい」
「ずるかったですか?」
「ああ、ずるいよ。私が今までずっと欲しくて堪らなかった言葉を、よりにもよって……こんなっ、今言うなんて……」
何故か殿下は拗ねたように抗議した。
「……今言うなんて、だめでした?」
「だめな訳ない」
もう、どっちなの。
殿下が真剣な表情でそうやって答えるから、私は思わず笑いそうになってしまった。
気が付けば、私達の距離は更に近くなっていた。殿下の伏せた瞳に、睫毛の影ができている。それがすごく綺麗だなって思った。
「嬉しくて頭の中がおかしくなりそうだ。君のいない一年は本当に……本当に長かったから」
殿下はそう囁いた。
そして私の頬をゆっくりと引き寄せ、唇を塞いだ。
触れた唇から熱が伝わる。その熱はやがて全身に広がっていった。私はそのまま目を閉じた。
私は、今すごく……幸せだ。
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