第12話 ポプラレスⅢ
私は先生の後に続いて歩いていた。すると正面から中年の男性が駆け寄って来るのが見えて、少し身構えた。だけど、その人は先生に用があったようだった。
「グレンズ、頼まれていた指輪の件だけど……王族以上の力に耐えられるようになんて、それはさすがにできない……」
駆け寄ってきた男はそう言いかけて、私を見た。
「あれ、新入りのお嬢さんもいたんだ」
そう言われて、私は軽く会釈した。だけどその頃にはもう私のことは目に入っていなかった。
男は小太りで、背が低くて前歯が欠けてる。確かさっきの部屋にいた幹部の一人で、ビリーという名前の魔法武器を研究している科学者だ。
指輪の件って何だろう?
「できない? そこをなんとかするのがお前の仕事だろう。言われた仕事はしないくせに、余計なことばかりして」
先生は高圧的な態度でビリーさんにそう言った。
「よ、余計なこと? なんのことだ! 僕は余計なことなど何もしていないぞ!」
「しらを切るな。先日、協力者だった記者が死んだ。どうせお前の仕業だろう」
何の話だろう。物騒だな……。
私は二人から一歩下がって存在感を消した。
「ハッ、君こそ『利用したら用済みだ』なんて言っておきながら結局いつも殺さないじゃないか。だからいつも僕にしわ寄せが来る!」
ビリーさんはそう声を荒げた。なんのことか分からないけど、私は思わず息を飲んだ。
結局いつも殺さない……? タチアナ様も今日のところは殺さないって言っていたけど……殺すつもりはなかったの?
先生の方を見たけど、私と目を合わせようとしない。
「その件は……もういい。で、話はそれだけか」
「いいや、例の魔法銃も完成した」
「見せろ」
「はぁ、君は相変わらず態度がでかいな。ほら、これは
そう言って毒々しい紫色の拳銃を取り出した。シールド魔法が効かない? 魔力に比例? そんな武器があるの?
私の視線に気付いたビリーさんは、銃を持った手を背中に隠した。
「おっと、それ以上は機密事項だからね。今日来たばかりのお嬢さんには教えられない。グレンズ、今すぐ研究室に来てくれ」
そう言ってニヤリと笑った。なんなの、それ。
「では、私は部屋に戻りま……」
ここにいたらお邪魔みたいだから一旦戻ろう。私はそう言おうとすると、後ろから甲高い声が聞こえた。
「では私達がお嬢さんの案内をしてもいいかしら。ね、いいでしょ?」
振り返ると、さっきの部屋にいた煙草の女性が立っていた。その後ろには他の女性幹部二人がにこりと微笑んでいた。
先生は気怠げに声を上げた。
「いや、結構だ」
「えっどうしてよ。貴方いつも忙しそうにしてるじゃない」
「そうよ。それに私達もディアナさんと仲良くなりたいの。ね、いいでしょ?」
後ろの二人はそう言って引かない。
「そうよ。さっきは私、言い過ぎちゃったからお詫びがしたいの」
煙草の女性はそう言って私の手を取った。こんなに突然態度が変わって怪しいな。
だけど私は別に、先生が忙しいのなら誰に案内してもらっても構わない。むしろ一人で動き回りたいぐらいだけど……それはできないし。
それに他のポプラレスのメンバーのことも探りたかったから、これはチャンスかもしれない。
「では是非、よろしくお願いします」
私がそう言うと、三人は嬉しそうに笑った。先生は少し不満そうだったけど、さっきの魔法銃の話の続きをするため研究室へ行ってしまった。忙しいのは本当みたいね。
「あははははははは!」
響き渡る甲高い声。ああ、なんでこうなっちゃったの。私は数分前の自分の判断を呪った。
「あの、すみません。ここから出してください」
私は扉の向こう側に向かって声を上げた。
「ふはっ、出してくださーいだって! アハハハ!」
「お高く止まってたくせにいい気味ね」
「しばらく閉じ込めておきましょ」
扉の外で楽しそうにはしゃぐ三人の声。
お分かりだろうか……そう、私はまんまと罠にはめられてしまった。部屋を案内すると言われて、いきなりよく分からない部屋に押し込まれて、そのまま鍵をかけられてしまった。
この部屋は灯りもなくて、物が散乱した倉庫のような感じ。魔法で扉を破壊しない限り、ここから出られそうにない。もちろんそんなことしたら、かなりの魔力を消耗するし、今日はもう砂嵐を出現させてしまったからそんな魔法を使える力は残ってない。……最悪だ。
外からの笑い声が絶えない。なんと言うか……やることが陰湿だな。
「貴族の幹部がこれ以上増えたら、平民の私たちの立場がないわよねー」
「本当よ、しかも魔力持ちの小娘なんて。いい? 私達は先輩として、貴女の正しい立ち位置を分からせてあげてるのよ」
外でそう話す声が聞こえる。ポプラレスには何名か貴族の幹部がいるらしいけど、それをよく思ってない平民幹部もいるのね。それに魔力持ちに対してもいい印象はないみたい。
「あーあ、ほんとムカつく。こんな小娘がグレンズに馴れ馴れしくしちゃってさ」
「本当よね。それが一番ムカつくわ」
……って、そこ? それが一番気に入らなかったの? 自分が閉じ込められたまさかの理由に愕然としてしまった。
「じゃ、私達は向こう行ってるから頑張ってね。お嬢さん」
「怖くておしっこ漏らさないでねー」
「やだー汚ーい。アハハハハハ」
そうして笑い声が遠のいて行った。
うーーん。どうしよう。
……ま、いっか。流石に朝まで放っておかれるわけじゃないだろうし。そのうち嫌でも誰かが来るでしょう。それにこれで監視の目がなくなって一人で動けるし。
そう考えて、物置と化した部屋の中を見回した。ボロボロのソファとか、埃の被った本棚や、時計、他にも色々……。この中に何か役に立ちそうなものが眠ってたらいいんだけど。
しばらく部屋の中を物色してみたけど、ポプラレスに関する大事な情報とかは正直何もなかった。
はあ……なんだか疲れちゃった。
私は壁に寄りかかって目を瞑った。
するとガタリ、と音がして背中に面した壁の部分が少し動いた。
「えっ? なにこれ……隠し扉?」
役に立ちそうな何かが、こんなところにあるなんて。すごくラッキーなんじゃない?
動いた壁の部分をゆっくり右側にスライドさせると、そこには石造りの地下通路が続いていた。ここに来た時と同じような道だ。たぶん、非常口的なものだと思う。
……と言うことは、これは地上に繋がってるのかな。どこに辿り着くんだろう。どうせしばらく誰も来ないだろうし、とりあえず行ってみよう。
私はゆっくりと足を進めた。
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