第11話 ポプラレスⅡ
「ここが研究室。うちの科学者がここで魔力に対抗できる武器を開発してる」
グレンズ先生はそう言って研究室の隅に置いてあった不気味な形をした武器を指さした。
「こんなの初めて見ました」
「そうだろうね。本来は製造が禁止されているから」
「……なるほど。これがあれば魔力を持たない人でも、魔力持ちのような攻撃ができるって事ですね」
「まあ、使いこなすことができればの話だけど」
先生はそう言って、部屋を出た。私もそれに続いた。まだ部屋は沢山ある。廊下を歩きながら私は疑問に思っていた事を口にした。
「先生はどうしてポプラレスに入ったのですか?」
そう言うと、先生の表情が固まった。どうしたんだろう?
「先生?」
「グレンズ、だ。前の君は私をそう呼んでいただろう?」
ん?? ああ、時が戻る前のディアナの話ね。
「今もそう呼んだ方がいいですか?」
「いや、無理強いはしない。だけど私は……そちらの方がしっくりくる」
「でしたら、そう呼ぶように努力します」
先生のこと名前呼びするのはめちゃくちゃ抵抗があるけど……もう魔法学園の先生じゃないもんね。
「私がなぜポプラレスに入ったか……か。『貴族社会を壊したい』と以前言っただろう?」
「はい、それは聞きました。でも、先生……いやグレンズ……さんも、貴族じゃないですか。私だってそうです。だから、どうしてなのかなって思ったんです」
私がそう言うと、グレンズさん……いや、やっぱり慣れないから先生でいいや……先生は、表情を曇らせた。
「私は知っての通り生まれながらの貴族ではない。元々は、何も持たない孤児だった」
「……そうだったんですか」
先生がグレンズ家の養子ってことは知っていたけれど、孤児だったなんて初耳だ。
「ここはね、私が暮らしていた孤児院の地下にある。といっても上はもう廃墟になっているけど」
「孤児院……?」
「ああ、そして当時の孤児院の院長だったのがアルペア様だ。私はアルペア様の教えの元、幼い頃から“理想”を教え込まれてきた」
「え……」
それって洗脳じゃないの? 何も分かっていない小さな子供に、自分の考えを押し付けるなんて。
「そしてある日、魔力が宿った私は孤児院を出て貴族になった。生活がまるで変わったよ。だけどアルペア様に教え込まれた信念は変わらなかった」
「……」
先生がポプラレスにいる謎が解けたと同時に、心のどこかで同情してしまった。もしアルペア神父に出会わなければ、先生はこんな暮らしをせずに……悪役にならずに済んだのかもしれない。
「というのが、時が戻る前の私がここに属した理由だ」
先生は自嘲しながらそう言った。“時が戻る前”の理由……? ということは。
「今は違うのですか?」
私がそう問うと、先生は立ち止まって怪しげに笑った。
「もちろん“理想”を実現させたい気持ちはあるが、それ以上に私の胸にあるのは“復讐”だ」
そう話す先生の瞳は、私を捕らえて離さない。まるで天敵に狙われた小動物になってしまったみたい。全身に鳥肌が立っている。
「これは私と君の未来を奪った貴族達への復讐なんだ。聖女ぶったあの女……ジュリア・マグレガーも、冷酷な第二王子も皆不幸になればいい。そのために私は二度目の人生を送っているんだよ、分かるかディアナ?」
「そんな……」
違う。そんなの間違ってる。せっかく二度目の人生で、全てやり直すことができるのに。それを復讐のためだけに生きているなんて。
「あの日、君が処刑されてから私は変わってしまったよ。君の死は私の復讐心に火をつけてくれた」
そう言って先生は顔を歪めた。
きっと時が戻る前のディアナは先生に憧れていたんだと思う。だけど今の私は違う。だからその復讐に加担しようとも思えない……。
先生は何も言わずにまた歩き出した。
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