第10話 ポプラレスⅠ
床一面に赤色の絨毯が敷き詰められ、天井にはシャンデリア、そして部屋の真ん中に豪華な装飾がされたテーブル。地下の錆びれた扉を抜けた先に、こんな広くて立派な部屋があるなんて思いもしなかった。
「ここにいる間、“それ”は外してあげよう」
グレンズ先生はそう言って私の小指から指輪を外した。
自分でやってもびくともしなかったのに、先生が触れるといとも簡単に取れてしまった。きっとそういう魔法がかかっているんだと思う。
久しぶりに何もない状態になった指先を見て、少し解放された気分になった。
だけど、それも束の間。目の前にはポプラレスの幹部らしき人達が、私を品定めするような視線で見ていた。
「貴女が、『革命の女神』ですね」
私にそう言ったのは、初老の神父アルペア様だ。この人とは今まで教会で何度か顔を合わせたことがあった。
神父様は私を見て満足そうに口角を上げていた。いつも柔かな雰囲気を纏っていたけれど、今は印象が全く違う。仰々しい椅子に深く腰掛けている様子からして、この人がボスだということはすぐに分かった。
私は用意されていた真っ赤な椅子に腰掛けて、部屋を見回してみた。
この部屋には大人が十三人……私を入れたら十四人いる。仮面をつけている人もいれば、素顔を晒している人も。そしてグレンズ先生と神父様を入れて男性が十人、残り三人は女性だ。一人の女性が煙草を片手に持ちながら、私を睨んでいる。
……あまり、歓迎されてないみたいね。
そうこうしているうちに神父様はポプラレスの“理想”を語っていた。
私のことを『革命の女神』だなんて、どうかしてる。
神父様の“理想”はこの国を良くしたいとか、平民の生活をよくしたいって気持ちは微塵もなくて……ただ邪魔な貴族と王族を排除して自分達が上に立とうとしている。そして、そのためには手段を選ばないって所が危険すぎる。
「ディアナ・ベルナール。この場にいる以上、もう貴女は私達の“同志”だ。同志は家族、だから裏切りは許されない。分かるね?」
神父様にそう言われて、額に冷たい汗が滴っていく。
ここは怪しまれないように振る舞わないと。
「光栄です。みなさんの同志になれるなんて」
なるべく落ち着いた声色でそう答えた。我ながら悪役っぽい芝居が板についてる。勢いでこんな所まで来てしまったけど、ポプラレスを壊滅させる策は……今のところない。そう、ノープラン……。この状況って結構まずいよね。
「フンッ、貴族の娘なんて役に立つの? 魔力持ちはグレンズがいれば十分でしょ?」
煙草を吹かしていた女の人が、うんざりした様子でそう呟いた。そして私に向かって声を荒げた。
「ちょっと、あんた! 失敗したらどうなるか分かってるんでしょうね!」
それを聞いていた先生は、意味深な笑みを浮かべて私を見た。回帰前の記憶がある先生からすれば、私が同じミスをするはずがないって確信しているんだ。
私は怪しまれないように堂々と答えた。
「はい。分かっています」
失敗したらどうなるか。そんなの、ゲームのシナリオ通りになるだけだ。
私は捕らえられて、ポプラレスも弾圧される。だけどジュリアちゃんは無事で、他のみんなも危険に巻き込まれることはない……。
ん? ちょっと待って。それ、それよ。それって、理想的な結末だ。そっか、その手があった!
「……必ず、成功させてみせます」
……失敗すればいいんだ。
私は口に出した言葉と逆の決意をした。
ここにいる誰もが、私が捨て身で失敗しようとしているなんて思っていないはず。
私が失敗すれば、被害が最小限で済む。もちろんその後の私はどうなるか分からない。たぶん……ゲームのシナリオ通りに断罪される。だけどそれでもいい。それが元々の私の――ディアナの役目だったんだから。
アルペア神父や他の幹部達は話を続けていた。その内容は、民衆を取り込むために魔力持ちの貴族に濡れ衣を着せて事件を起こすとか……物騒なことばかり。
聞けば聞くほど、ポプラレスの考えには賛同できない。身勝手で残酷で……だけどそれを神聖な行いだと思い込んでる。
ある意味ここに潜入できてよかったかもしれない。ここにいることで殿下やジュリアちゃんや他のみんなに起こりそうな危険を未然に防ぐことができるかもしれないし。
一通りの話が終わると、他の幹部達は散りじりになった。お酒を飲んだり、ポーカーをしたり、難しそうな本を読んだり、そのまま部屋を出て行ったり……。そしてアルペア神父は幹部の一人と何かを話し込んでいる。
今がチャンスかもしれない。隣にいた先生に声をかけた。
「この部屋以外も見ておきたいのですが……構いませんか?」
この部屋の外には廊下が続いていて、他にもたくさん部屋があった。何か情報を得られるかもしれないし、今のうちにポプラレスのことを探っておきたい。
「なら、案内するよ」
先生はそう言って立ち上がった。
案内……か。本当は一人で見て回りたかったけど、仕方がない。きっと今は指輪が外れているから、そのまま逃げられたら困ると思ったんだろう。私は先生の後に続いて部屋を出た。
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