第11話 三角関係
「あそこにいるのはランドルフと……ああ、ジュリア・マグレガー嬢だね」
リチャード様は私の隣で身を屈めてそう言った。何故か小声だ。
「はい。お話し中みたいです」
私も釣られて小声になった。
これ、周りから見たらかなりおかしな状況よね? 茂みに隠れて殿下とジュリアちゃんを観察する私とリチャード様。なんだか、リチャード様を巻き込んでしまったみたいで申し訳ない。周りに人がいないのがせめてもの救いだ。
「で、なんで僕たち隠れてるんだろう?」
「それは……」
それは、私があの二人に近付いたら悪役になっちゃうかもしれないから……なんて、言えるわけない。リチャード様は不思議そうに私と殿下達を交互に見て、なるほどと声をあげた。
「もしかして、あの二人にやきもち妬いてるの?」
「ぶっ!」
リチャード様の言葉に、私は思わず吹き出した。
な、なななななんで分かったの?
「あれ、図星?」
「……リチャード様はエスパーなのですか?」
「ふっ、あはは、どうだろうね?」
リチャード様は無垢な笑顔でそう言った。
「僕もね、そういう気持ちになる時があるから分かるんだよ」
「なっ……」
いきなり投下された爆弾発言に驚いて言葉が詰まった。
『そういう気持ち』っていうのは、リチャード様もそういう相手がいるってことだよね? えっ? うそ、誰?
はっ……。
私はすぐさま勘付いた。というか、リチャード様は攻略対象の一人なんだから、誰にって……そんなの決まってるじゃない。
私はもう一度、殿下達の方を見た。まだ殿下とジュリアちゃんは何かを話してる。
私は二人とリチャード様を交互に見て確信した。でもリチャード様はなぜか苦笑いしてる。あんまり余計なことを言っちゃいけないのかな。
私の知らない間に三角関係は始まっていたなんて。逆ハールートってやつだよね。そんなことになってるなんて全く気付かなかった。
「うわあ……予想はしてたけど、悲しいぐらい伝わんないなぁ」
リチャード様は溜め息を吐いて小声で何か言っていた。
「あの私、誰にも言いませんから大丈夫ですよ」
「え、ああ……うん。はは、君って面白いぐらい鈍い時があるっていうか……時々すごく心配になるよ」
「え?」
なんだか会話が噛み合わない。
『鈍い』って、なんのこと? 私ったら知らないうちに配慮の足りない事でも言っちゃったのかな。
私がそんな事を思っていると、リチャード様は急に真剣な顔になって話し始めた。
「僕はね、別にその人とどうにかなりたいってわけじゃないんだ」
リチャード様はそう言って目を伏せた。なんだか、見てるこっちまで切なくなってくる表情だ。
「その人が幸せだったら僕も嬉しい。それに、こう見えて僕もランドルフのこと大好きだからさ。二人が幸せになってくれるのが一番いいって思ってる」
あっ、殿下の名前出しちゃった……。やっぱり、リチャード様の想い人ってジュリアちゃんなんだ。
「だけどもし、その人が何か悩んでいたり、一人で苦しんでいて、どうしようもなくなったら……僕は助けてあげたいんだ」
うっ……なにそれ……。
「なんて健気なんですか……!」
ちょっと目元が潤んできた。私はハンカチを取り出して目尻を拭いた。
私、リチャード様がこんな健気なキャラだったなんて知らなかったよ……!
「うん。だからね、ディアナ嬢」
リチャード様の声がワントーン低くなって、私の方に向き直った。
「な、なんでしょう?」
私が身構えると、リチャード様の綺麗な顔が少し近付いてきた。
「その時は、僕のこと好きになってね」
「えっ……?」
私は口を開いたまま、ぽかんとしてしまった。
ど、どういうこと? だって今、ジュリアちゃんの話をしてたんだよね? それなのに、なんで急に私が出てきちゃったの?
私はリチャード様にどんな言葉を返していいか分からなくて、あたふたしてしまった。
「あはっ、冗談だよ」
焦っている私を横目に、リチャード様は悪戯っぽい笑顔でそう言った。
いやいや、それどんな冗談なの! ああ、びっくりした。
「リチャード様! さっきのは心臓に悪いです……!」
「ごめんごめん。君がどんな顔するのか見たくなっちゃって」
「もう! こういうのは私じゃなくて、本人に言ってください!」
「はは、そうだね。……いつかそうするよ」
リチャード様は何故か苦笑いしている。
「何を言うって?」
すると今度は別の声が降りてきた。私はとっさに顔を上げた。
「殿下……!」
そこには殿下がいた。殿下はいつに間にか私達の前に立っていた。
ってこの状況まずいよね? 私が殿下とジュリアちゃんをこっそりストーカーしてたってことがばれちゃうんじゃない? どうしよう。
「ディアナ、こんな所でリチャードと何をしてたんだ?」
「えっと……それはその……」
まずいまずい。このままだと私だけじゃなくて、リチャード様までストーカー認定されてしまう。
「ふふ、ランドルフには内緒だよねー?」
リチャード様は明るい声でそう言った。その瞬間、殿下の顔がぴくりと固まったように見えた。
「それよりさ、ランドルフはジュリア・マグレガー嬢と何してたの? 僕らも仲間に入れてほしいな」
「何って始末書の指導だよ。用があるなら声をかければよかっただろ」
始末書の指導……? もしかして殿下は総裁の業務をしていたの? 気安めだってことは分かってるけど、なんだか少しだけほっとしてしまった。
するとリチャード様は殿下には聞こえないぐらいの声で「よかったね」と耳打ちしてきた。私は嬉しくてつい頬が緩んでしまった。
「指導の方はもうすぐ終わるよ。……ディアナ、こっちへおいで」
殿下はいつもより少し強い口調でそう言って、私の手を取った。
もしかして何か怒ってる……? だけどそれ以上は何も言ってこなかったし、きっと気のせいよね。
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