第2話 思い返すと色々ひどい
私は、乙女ゲームでの悪役令嬢ディアナ・ベルナールについて思い出してみた。
ディアナは派手な顔立ちと長い黒髪が印象的な公爵令嬢。背が高い上に、派手なメイクやドレスによって威圧感がすごかった。そしてなにより態度がでかくて我儘で、意地が悪い。いかにも悪役って感じのキャラクターだった。
そして問題なのは、ディアナの婚約者が第二王子のランドルフ・エメ・ルーブ殿下であること。彼はゲームのメイン攻略対象者だ。
つまり私のこの世界の立ち位置は、王子の意地の悪い婚約者ということになる。
ゲームでは、ヒロインが魔法学園の特待生として入学し攻略対象達と恋に落ちる。ディアナは自分よりも可愛らしく、強い魔力を持っていたヒロインが気に食わず、彼女の恋路を邪魔し最後は毒殺しようとまでする。そして王政を脅かす勢力とも手を組んで色々と悪事をしてヒロインたちを苦しめていた。
だけど最後は殿下に断罪され、処刑されてしまう。このまま物語が進めば、私は絶対死ぬ運命なんだ。
そもそもディアナは、ランドルフ殿下に恋していたわけではなかったのよね。見目麗しい王子様の隣を歩く自分が好き!みたいな感じ。そんな私の性格なんて、きっと殿下はお見通しだろうけど。
そしてヒロインに対しても恋路への嫉妬ではなくて、彼女の人気や名声に対する嫉妬だったはず。
殿下とは関わらない方が身のためだったけど、お馬鹿な私はすでに猛アタックしていて二年前に婚約済みだ。これは変えられそうにない。
記憶が戻って早五日。未だ顔色が優れない私を家族は心配してくれていた。部屋で療養させられ、天井に向かって考え事をする日々。
でもどうすればいいのか、未だに解決策が浮かばない。途方にくれ溜息ばかり吐いていたちょうどその時、自室のドアが鳴った。
「ディアナ、ランドルフ殿下がお忍びで来てくださっている。入っていただいてもいいか?」
げっ、ついに来たか。
お父様の声に一瞬固まったけど一国の王子を待たせるわけにはいかない。私は身なりをさっと整えて殿下を迎え入れた。
「いつも溌剌な貴女が体調を崩されたと聞いたので。お見舞いです」
いつも溌剌って。たしかに今まではある意味溌剌と暴れていたけど……殿下は言葉選びのスペシャリストね。
殿下は深いブラウン色の髪をサラサラとなびかせ、宝石のようにキラキラとした瞳で私を見た。そして慈善活動の一環のように微笑んだ。同じ歳とは思えないほど大人びた表情。そして殿下の護衛が大輪の薔薇をふんだんに使った花束を渡してきた。もちろん殿下からの贈り物。
「ランドルフ殿下、ご心配をおかけして申し訳ございません。お気遣い有難うございます」
私はそう言い、ランドルフ殿下に深々と頭を下げた。反射的にそうしてしまっていた。何も考えずとも、そうせざるを得ないような高貴な雰囲気を殿下は持っていた。
顔を上げた私は、目を丸くさせている殿下と目があった。背後の護衛の方々もざわついていた。
え、私なんかやらかした……? もしかしてもう処刑? 待ってそれはちょっと早くない?
「ディアナ嬢……何か悪いものでも食べたの?」
と神妙な面持ちの殿下。えーと、確かに悪いもの(得体の知れない手作りケーキ)は食べたけど……。
あぁ、なるほど、そう言うことね。
きっと今までの私だったら真っ先に「殿下がはるばる来てくださるなんて! さすが私!」とかなんとか言ってお礼も言わずにうっとりするか「花よりも宝石が良かったです!」とか失礼極まりないことを言っていたと思う。こういう発言にも殿下はいつも作り笑いでスルーしてくれていた。きっと私が失礼なことを言うのは想定内で見舞いに来てくれたんだろう。なんだか申し訳ない。
そして、呆気にとられた殿下は先程のような作り笑いではなく本当に心配そうにこちらを見た。綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。
「だ、大事ありませんわ」
私はとっさにそう答えた。殿下は不思議そうにしていたけど、まもなく帰らなくてはならないらしく屋敷から去って行った。
一時はどうなるかと思った。殿下は私の変わりように驚かれていたけど、なぜか最後はいつもより柔かな表情だったな。
「……そうか」
思わず心の声が出てしまった。
私はついに、自分の生存ルートを閃いた。そう、決して難しいことじゃない。今から地道に頑張れば。
今日から私は、とにかく謙虚に生きる。悪事に手を染めず、ヒロインもいじめない。もちろん人の恋路の邪魔もしない。そして今まで好き勝手して迷惑をかけた人達にはちゃんと謝っておこう。
そうすれば……! そうすれば、助かるかも知れない。もし処刑されるようなことが起こっても、ある程度刑が軽くなったり、情が移った誰かが庇ってくれるかもしれない。
私が生きる道は、それしかない。
私、ディアナ・ベルナールは謙虚に生きて断罪回避を狙います!
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