Chapter.03

 二匹の生命体は、宇宙服っぽい衣類を身につけていて──ヘルメットらしき被り物が地面に置いてある──皇帝ペンギンそっくりの容姿をしていた。


(どうしよう……めっちゃかわいい!)


 めぐむは、かわいいものが大好きだった。

 目の前でうごめく謎の生命体が愛おしくてたまらない。ギュッって抱きしめたい。可能であれば、家に連れ帰ってペットにしたいとさえ思っていた。


 愛らしい外見がいけんにすっかりと油断しためぐむは、二匹のすぐうしろまで近づくと、その場でしゃがみこんで彼らの行動をほほ笑みながら観察していた。


『ペペン!?』

『ペーン!?』


 遅いくらいではあるが、二匹もようやく傍観者に気がつき、お互い抱きあった格好で驚きに震えはじめる。


「えっ、違うよ! あの……わたしは何も悪いことはしないからね、うん!」


 自分に怯えている二匹を見ためぐむは、しゃがんだまま両手のひらと顔を小刻みに振って、〝敵ではない〟と伝えようとした。

 めぐむの熱意が通じたのか、落ち着きを取り戻した一匹が、身につけている宇宙服の首もとにあるダイヤルを何度か前後に回す。


『あー、あー。ペン、ペペン、ペン。私の言葉がわかりますか?』

「ええっ!? 日本語がしゃべれるの!?」

『いいえ。しゃべれるというか、こちらの装置から特殊な音波を放射しまして、あなたの脳に直接信号をナンタラカンタラ』


 皇帝ペンギンそっくりの宇宙人……いや、宇宙ペンギンはその後も翻訳機の説明をしてくれたのだが、めぐむにはさっぱり理解ができない異国の言語を聞かされている気分だった。


「あははははは……オー、イェース!」


 とりあえず、笑顔と共に右手親指を立てて前へ突き出す。


『はい? それはこの惑星の挨拶なのでしょうか?』


 一応、小首を傾げながらではあるが、宇宙ペンギンも右側のヒレを前に突き出して返してくれた。


「かっ、かわいい!」


 思わず抱きついて頬ずりをする。

 そんなめぐむの背中を、もう一匹の宇宙ペンギンが怒った様子でペチペチと何度もはたく。


『ちょっと! ダーリンから離れなさいよ、この宇宙うちゅうザル!』

「宇宙猿ってひどい……痛い、痛い、痛いってば!」


 話をいてみると、二匹の宇宙ペンギンは新婚夫婦で、ハネムーンとして太陽系にやって来たらしい。青くて綺麗な地球に近づいたところ、廃棄された人工衛星の破片に衝突して墜落してしまったそうだ。


「そんな……宇宙船は修理できないの?」


 大気圏近くに漂う宇宙ゴミ問題は授業やテレビで聞いたことはあったけれど、いかんせん地球外の話だったので実感はまるでなかった。しかし、今はこうして被害者が──それも、宇宙ペンギンたちが目の前にいる。


『なんとか故障箇所は直せそうなんですが、漏れ出た分の不足した燃料が……うまく手に入るかどうか……』

『ううっ、ダーリン……あたしたちどうなるの?』


 涙ぐむ新婦がヒレで顔を覆うと、


『大丈夫だよ、ハニー……きっと幸運の女神さまが助けてくれるさ!』


 笑顔で(笑っているように見えなくもない)新郎が肩を抱き寄せて慰める。


 ほんの一時間くらい前まで〝宇宙人に会えるかも、ラッキー!〟と考えていた自分が恥ずかしい。慰めあう二匹の健気な姿に、めぐむの目にも涙が光る。


「あの……宇宙船の燃料って何? できるだけ助けになりたいから、教えて!」

『おおっ、それはありがたいです! 宇宙船の燃料はですね……』


 新郎の宇宙ペンギンは急ぎ足でうしろの宇宙船に近づき、何やらまさぐりはじめる。


『これです!』


 戻ってきて差し出したヒレには、薄汚れた布切れが掴まれていた。


「これって……」


 燃料といえば液体を想像していたので、まさかのボロ切れに困惑するめぐむ。


『はい。地球でいうところの、綿100%の素材です』

「燃料は……それだけ?」

『はい』


 綿製品なら家にたくさんあるじゃないか。

 とりあえず、ポーチにしまっていたミニタオルを手渡しためぐむは、すぐに戻って来ると二匹に約束をして立ち上がった。


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