Chapter.02

 なんとも形容し難い高揚感のなか、めぐむは裏山をめざして走る。


 もしかしたら、あれは地球外生命体の乗り物で、未知との遭遇が実現すれば自分の名前を歴史に残すことができる──かもしれない。

 べつに有名人になりたいわけではないのだが、ちょっとだけ、内向的なめぐむに野心が芽生えた瞬間であった。


「あっ!」


 裏山に近づくにつれ、狼煙のろしのような真っ白い煙が昇っていることに気づく。それはほかの誰かが気づけば、裏山で火遊びをしているとか、不審火だとか、通報されてしまうレベルの煙の量だ。


「急がなきゃ……」


 プリーツスカートをひるがえしながら、めぐむは辛そうな表情でひたすら住宅街を走り続けた。



 その裏山は、山といえるほど高くはなく、丘というほど低くもなかった。群生する木々は常緑樹が多く、秋や冬の季節でも深緑の姿を遠くまで投げかける。ランドマークとまではいかないが、ちょっとしたこの街のシンボルといえよう。


「うわっ、きっつ!」


 緩やかだった住宅街の坂道とは違う、傾斜のキツい山道を登りながら、煙の場所を探してみる。


 名前を知らない木の樹冠から降りそそぐ午後の日射しに目を細め、なんとか見えた煙の量は鎮火した焼け跡にくすぶるくらいまでに減っていた。

 すっかりと消えてしまうまえに墜落場所を見つけたいめぐむは、制服が汚れてしまうのも気にしないで生い茂る草をけて進む。


 そしてついに、たどり着く──


「ええっ……すごい…………本当にいたんだ、宇宙人……」


 気配を感じためぐむが草木の陰に身を潜めて様子をうかがえば、消波ブロックの形をした銀色の物体のまわりに二人の──いや、二匹の小さな生命体がいた。


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